認知症の問題行動は謎だらけ!解明することで適切な対応に!
認知症の人が起こす問題行動、健常者からみると謎だらけの行動も、メカニズムを解明すると納得できることも多くあります。
問題行動のワケを知ることで適切な対応ができ、認知症の人も介護者も安心できる環境になっていくのではないでしょうか。
そこで、認知症介助士であり放送作家でもある新田英生氏に3回シリーズで認知症について執筆いただきました。
第1回目の今回は「なぜ、認知症は、人間らしさを失わせてしまうのか?」についてです。ぜひ最後までお読みください。
はじめに
40歳のA子さんは久しぶりに実家へ帰省し、我が耳を疑いました。
「お母さん、久しぶり」
言ったのは自分ではありません。
母が娘である自分に「お母さん」と言ったのです。
母親は認知症でした。
認知症の症状は実に様々です。
- 我が子が誰だか分からなくなる
- 服を自分で着られなくなる
- 赤信号でも道路を渡る
- 冷水のお風呂に長時間浸かる
脳の働きが阻害され、人間らしさを奪っていく認知症。
65歳以上の5人に1人が認知症の時代。
将来、自分が認知症になる心配もありますが、親が認知症を発症し、介護をしなければならない事態は、いつ起きても不思議ではありません。
なぜ認知症になると人間らしさを失ってしまうのか?
認知症とは?
認知症とは、いろいろな原因で脳の細胞が死んでしまったり、働きが悪くなってしまったりした為に様々な障害が起こり、生活するうえで支障が出ている状態のことを言います。(およそ6か月以上継続)
※厚生労働省による認知症の定義
分かりやすい例では、
昨夜食べた寿司のネタを全ては思い出せない。
これは単なる物忘れです。生活に支障は出ません。
一方、昨夜食事をしたこと自体を忘れてしまう、食べたことを忘れてまた食べてしまう、このように正しく認識する能力が失われてしまうのが認知症の症状です。
認知症は、その要因によってタイプが分かれますが、最も多いのが以下の2種類です。
A血管性認知症
・脳梗塞や脳出血などの脳血管障害によって起こる
・年齢に関係ない
・治療により回復の可能性がある
Bアルツハイマー型認知症
・主に老化による脳細胞の萎縮によるもので認知症の大半を占める
・65歳未満で発症する若年性アルツハイマー型認知症患者も9,600人存在する
・進行を遅らせる薬はあるが根本的な治療法は現時点でない
今回は、この認知症の大半を占めるアルツハイマー型について紹介していきます。
認知症の原因
認知症は脳のゴミと呼ばれるアミロイドβタンパクが溜まり、脳の記憶神経回路が破壊され発症します。
実は、認知症を引き起こすアミロイドβタンパクが溜まり始めるのは、発症する20~30年前と言われています。
高齢者の病と思われる認知症ですが、自分の親に対してだけでなく、自分自身も、若いうちからの正しい知識をつけ、予防することが大切です。
認知症ミステリー
認知症のメカニズムとそれを知る重要性
- 我が子が誰だか分からなくなる
- 服を自分で着られなくなる
- 赤信号でも道路を渡る
- 冷水のお風呂に長時間浸かる
これらは、健常者にとっては理解し難い行動ばかりです。
ですが、認知症の人が行うその行動には理由があります。このメカニズムと心理を理解し、対応できるかで、認知症本人も支える家族の人生にも大きな差がつくのです。
A認知症のメカニズムや心理を理解している場合
・認知症による問題が起きた時、適切に対処することで問題をおさめられる
・認知症の進行を遅らせられる
B認知症のメカニズムや心理を理解していない場合
・認知症による問題が起きた時、問題をおさめられず、事態を悪化させる
・親の認知症の進行が進み、親子の信頼関係も悪化。より難しい問題に直面する
認知症ミステリーの謎とき
記憶が失われるというイメージの認知症ですが、単に知識としての記憶が失われるだけではありません。
脳は人間のカラダ全体の司令塔であり、生きる上で大切な殆どのことを担っています。
- 身体の動かし方
- 判断の仕方
- 感情のコントロール
- 気候の変化への対応
このように生きていく為に学び、体得してきた、ありとあらゆることが記憶として脳に蓄積されています。
そして、全ての記憶は、リレーの中継地点のような場所でつながっているのです。
赤い・丸い・野菜→トマトという名前→爽やかな酸味という味覚→サラダに入れると美味しい→八百屋さんで買う→綺麗に切るには研いだ包丁が良い
ところが、中継地点が壊れてしまうと、個々の記憶がつながらなくなり、トマトを見ても、赤い丸い物としか理解できす、名前も食べ物とも認識できなくなるのです。
先にあげた認知症ミステリーの場合
- 我が子が誰だか分からなくなる 顔(視覚)→×→誰(名前)
- 服を自分で着られなくなる 服(視覚)→×→着る(行動)
- 赤信号でも道路を渡る 赤信号(視覚)→×→渡ってはいけない(モラル)
- 冷水のお風呂に長時間浸かる お風呂(視覚)→×→温度の感覚
このように記憶の連携がうまくいかず、当たり前に出来ていた行動が出来なくなることで人間らしい暮らしが出来なくなってしまうのです。
娘が母親に「お母さん」と呼ばれてしまったワケは?
では、記事の冒頭にあげた、娘が母親に「お母さん」と呼ばれてしまったワケは?
認知症に限らず人間の記憶は、古くから長年刻まれた記憶ほど消えにくく、新しく特に必要ない記憶から消えていくと言われています。
このケースの母親は、娘の顔と存在の連携が出来なくなってしまったのです。
しかし、自分が子どもの頃に見ていた母親の記憶は顔も含め明確に残っています。
さらに、親子であれば顔が似ていることも多く、娘の顔が自分が子供の頃に見ていた母親の姿と重なり、娘を母親と錯覚してしまったのです。
このように認知症による認知障害は、人それぞれで認知症の進行状況によっても異なってきます。
認知症の恐ろしさ
自立した生活が送れない
認知症が進行すると自立した暮らしは困難になってきます。
例えば、トイレ。
排泄(行動)→×→トイレ(場所)→×→清潔感(衛生意識)
と記憶のリレーが出来なくなってしまうと、単なる生理現象として所構わず排泄してしまいます。
さらに、清潔感の概念も一致しないので、排泄しっぱなしになってしまいます。
こうなると介護が必要で、一人暮らしの場合、通いの介護ヘルパーさんでは対応不能になってしまいます。
また、夫婦二人暮らしの場合は、どちらかが介護疲れで倒れてしまうことになりかねません。
銀行口座から預金を引き出せない
お金(物体)→×→お金の管理(経済観念)
になってしまうと、ささやかな楽しみでやっていた競馬に大金を投じてしまう事態にもなりかねません。
実際、銀行などの金融関係では、窓口で大金を引き出そうとしている顧客が認知症と疑われる場合、財産を守る為に口座凍結という処置が行われ、本人でもお金を引き出せなくしています。
他人の命を奪う
認知症の症状は何かをきっかけに突然表面化することがあります。
車の運転が好きなB氏。
ある日、中央分離帯のない道路を運転していると、突然、道路が右側通行なのか?左側通行なのか?分からなくなってしまいました。
動悸が激しくなり、頭の中はパニック状態。
幸いにも、交通量が少なく、すぐに車を停車させた為、衝突事故という最悪のケースを免れることが出来ました。
B氏は、恐ろしくなり、家族を呼び、帰り道を運転してもらい、以後車の運転をやめました。
認知症の恐ろしさを理解していただけましたでしょうか?
- もし子どもと認識されなくなったらどうすれば?
- 親の財産はどうすれば?
次回は、親が認知症になった場合どうすれば良いのか?その対応法と事前の準備についてお伝えします。
ソナミラ株式会社 金融商品仲介業者 関東財務局長(金仲)第 1010号