【30代からの学び直し】「新しい資本主義」って結局なんなの!?政府の「骨太の方針」で私たちの暮らしはどう変わる?
2023年6月16日、政府は「経済財政運営と改革の基本方針2023」を閣議決定。新聞各紙には「骨太の方針 閣議決定」の文字とともに、その内容が報じられました。「骨太…。僕もそろそろ動かなければならない、か…」。某経済新聞の記事を読み、つぶやきながら冷蔵庫へと向かう男がここに1人…。男の名前は「金尾学(かねおまなぶ)」。冷蔵庫から出したコップに牛乳を注ぎ、「これが僕の骨太方針だぁぁぁ!!」と叫びだします。なんということでしょう。彼はやっぱり、記事の内容をまったく理解できていなかったようです。
<登場人物紹介>
馬渕 磨理子さん
一般社団法人 日本金融経済研究所 代表理事。コメンテーターとしてテレビ各局に出演し、ラジオ番組のレギュラーももつ人気経済アナリスト。通称「うまちゃん」。
金尾 学
30代のとにかく学びたい男。学ラン姿にグルグル眼鏡のトラディショナルスタイルが特徴。いかにも真面目そうな外見だが、その実態は…?
???:「牛乳を飲んでも、金尾さんの経済状況はよくなりませんよ!」
そこにすかさず鋭いツッコミを入れたのは、テレビのコメンテーターとしても大活躍中の人気経済アナリスト・馬渕磨理子(まぶちまりこ)さん!
金尾:「先生!『骨太の方針』ってなんですか⁉骨と経済にどんな関係があるというんですか?教えてくださいぃ!」
馬渕:「それを知るには、まず『新しい資本主義』のことを学ぶ必要があります!」
金尾:「新しい…資本主義???」
今回の「30代からの学び直し」では、経済アナリスト・馬渕 磨理子さんに、岸田政権が掲げる「新しい資本主義」や閣議決定された「骨太の方針2023」の内容、そして私たちの暮らしへの影響について、わかりやすく解説していただきます。
日本のこれからを決めていく「骨太の方針」のことを、金尾と一緒に学び直していきましょう!
最近よく聞く「新しい資本主義」って何?
金尾「僕も骨太になります」馬渕さん「(苦笑)」
金尾:「新しい資本主義」って何ですか?
馬渕:「新しい資本主義」とは、岸田首相が掲げている経済政策のことです。2021年の自民党総裁選のときから、岸田首相は「新しい資本主義の構築」を提唱しています。
金尾:資本主義ってたしか、「人それぞれが自由にお金を稼いでいいよ」ということですよね?それに新しいとか、古いとかがあるんですか?
馬渕:2001年に発足した第1次小泉政権を金尾さんはご存じですか?そのとき、小泉首相が打ち出していたのが、郵政民営化などに代表される、「新自由主義的政策」でした。
金尾:「新自由主義的政策」?難しい言葉が次から次へと出てきたぞ…。
馬渕:新自由主義(ネオリベラリズム)というのは、「国による福祉・公共サービスを縮小して、さらに市場の規制を大幅に緩和していこう」という経済の考え方です。簡単に言うと、「政府が使うお金を少し減らして、国のサービスを民営化していく。市場に対する規制を緩和して、企業間の自由競争のなかで経済を活性化していく」やり方ですね。
金尾:なるほど。企業が自由にお金儲けできるなら最高じゃないですか!
馬渕:一方で、新自由主義は「行き過ぎた価格競争」となる可能性をはらんでいます。牛丼チェーンが値下げ競争をしていた時代がありましたよね。価格競争が激化すると、企業は経営が苦しくなり、従業員の給与を抑え始めることも考えられます。収入格差の拡大にもつながりかねません。
金尾:なんと!
馬渕:2001年から形を変えながら続いてきた新自由主義的政策でしたが、これを見直していこうとしているのが、岸田首相が提唱する新しい資本主義なのかな、と私は考えています。
金尾:じゃあ、新自由主義が古い資本主義ってことなんですか?
馬渕:そうとも言い切れないのが現状なんです。政府は、今までの新自由主義的政策を否定するわけにもいかないと考えているのかもしれませんね。いろいろな考え方や思想が混じっているのが新しい資本主義の現状で、結果的にどんなものなのか理解されにくい原因になっていると言えます。
金尾:新しい資本主義は、実際に何をやっていくんですか?
馬渕:「成長と分配の好循環」と「コロナ後の新しい社会の開拓」をコンセプトに、資本主義をバージョンアップしていくと政府はメッセージを発信しています。岸田首相の話を紐解くと、「日本全体の経済を成長させながら、企業が利益を従業員に還元する仕組みを構築することで個人の収入を上げ、消費の活性化につながるような好循環を生み出していく」と言っているんです。
金尾:そうなれば、日本の景気はどんどん上向きに!
馬渕:そして、「新しい資本主義」を加速していくために示されたのが、今年の「骨太の方針」なんです!
金尾:よっ!待ってました!ここで牛乳の出番ですね!
馬渕:牛乳は関係ないです。
岸田首相の新しい資本主義を体現する「骨太の方針2023」。その概要とポイント
馬渕さん「骨は動物の骨のことではありませんが、贅肉を落とし骨太である強靭な国家像を目指すと示しているのが『骨太の方針』なんです」
金尾:牛乳を飲んでカルシウムを摂取すれば、みんな骨太になって、健康にもなるし景気も上向き!ってことじゃないんですか?
馬渕:「骨太」は、実際の骨を指す言葉ではないんです。「骨太の方針」の正式名称は「経済財政運営と改革の基本方針」と言います。年末の予算編成に向けて、政府が改革の方向性を示したものです。骨太の由来は諸説ありますが、当時の宮沢財務相が方針を決める議論を「骨太」と表現したのが始まりだと言われています。「簡単には揺るがない国の経済政策の『軸』になる議論」との意味合いが込められているのではないでしょうか。
金尾:おお、何かカッコいい!やるじゃん、政府。
馬渕:予算編成や経済政策は、元々、各省庁の利害を大蔵省(現・財務省)が調整し、主導する形で作られていました。それが、2001年の小泉政権下で首相官邸主導での予算編成を目指す「骨太の方針」の立案が始まったことにより、予算案のベースになる骨格を内閣が示す進め方に変わったんです。
金尾:なるほど!税金をどう使うか、その予算編成を決めるのが「骨太の方針」ってことですか!
馬渕:そういうことです!どのような政策に注力して、予算を割り振っていくのかという方針を決めているんです。
金尾:僕たちが納めた税金が、どう使われるか決まる…。骨太の方針、めちゃくちゃ重要じゃないですか!誰が決めているんですか?僕は呼ばれていませんよ!
馬渕:「経済財政諮問会議」による話し合いで決めています。メンバーは首相が議長を務め、関連閣僚や日銀総裁、経済界や学者などの民間有識者で構成されています。
金尾:僕が入る余地はなかった!
馬渕:毎年のおおまかなサイクルとして、6月に骨太の方針が決まり、それをベースに予算が組み立てられていきます。翌年1月に政府の原案が国会に提出され、3月頃に衆参両院で可決。通過すると予算が成立して、日本の政策が始まっていくんです。
予算編成の流れ
時期 | プロセス |
---|---|
6月 | 骨太の方針が決定する |
8月~12月 | 「骨太の方針」を元に、各省庁が概算要求書を作成・提出 |
12月中旬頃 | 財務相の予算案が策定される |
12月末頃 | 政府案が閣議決定 |
翌年1月 | 予算案を国会に提出。審議が始まる |
翌年3月 | 予算案が衆参両院で可決。予算成立 |
翌年4月〜 | 成立した予算で政策が実行される |
金尾:今年の骨太の方針では、何が決まったんですか?
馬渕:「骨太の方針2023」には、新しい資本主義の実現に向けて、構造的賃上げや人への投資の強化、投資意欲の向上、少子化対策などが盛り込まれました。とくに強いメッセージを感じたのは、日本で人口が最も多いにもかかわらず、消費意欲が衰えている中間層を賃上げによって豊かにするということでした。
金尾:前に教えていただいた「賃上げ」に関するところですね!
馬渕:そうです!新しい資本主義における「成長と分配の好循環」というキーワードも、大きく関わってきます。「企業への投資拡大により経済が回り始め、従業員の賃金に反映されることで、経済の好循環が生み出されていく」という考え方が、今回の骨太の方針2023のポイントになると思います。
金尾:人への投資の強化というのは、どういうことなんですか?
馬渕:企業にとって、人件費というのはコストであり、できれば抑えたいものという考え方が主流でした。今回政府が言っているのは、「人とは価値を生み出す存在だから、人に投資しよう!」ということ。つまり、「賃金を上げましょう」という考え方なんです。
金尾:なるほど!金尾への投資もお待ちしています!
馬渕:あとは人材育成・教育への投資です。スキルを高められれば、人材の価値が上がり、賃金も上がっていく。構造的な賃上げを実現しようとしています。
金尾:いよいよ、国が本気で賃上げできる環境を整えようとしている!僕の給料倍増計画の達成も近い!
馬渕:金尾さんは、まず働き始めましょうね!
骨太の方針や政策が、私たちの暮らしにどう影響するか?
金尾:給料が上がれば、欲しいものも買えるし、みんなハッピー!僕たちの暮らしもよくなりますね!
馬渕:新しい資本主義のコンセプトが実現すると、経済の好循環によって、私たちの暮らしは楽になるかもしれません。一方、当然ながら懸念される点もあるんです。
金尾:え…。
馬渕:今回の議論では、どこから財源確保するのかがうやむやになっているんです。防衛費増額や少子化対策に関する財源をどこから持ってくるのか、議論が尽くされていません。増税などで、実質的に国民の負担がふえてしまうこともあるかもしれません。
金尾:給料が上がっても、負担もふえたら意味がない!
馬渕:景気が冷えてしまう心配もあるので、政府は慎重に議論して欲しいところですね。
金尾:少子化対策にも、そんなにお金がかかるんですか?
馬渕:2023年の1月に、岸田首相は「異次元の少子化対策」という言葉を使って、日本の少子化問題解決に向けたメッセージを発信しました。骨太の方針2023では、政府の軸となる方針に少子化対策が掲げられ、「こども未来戦略方針」では児童手当の拡充や出産育児一時金の引き上げなど、さまざまな少子化対策プランを決定しているんです。
児童手当の拡充内容(所得制限を撤廃し、対象を高校生まで拡大)
年齢 | 手当の支給額 |
---|---|
3歳未満 | 1.5万円/月 |
3歳~高校生 | 1万円/月 |
第3子以降 | 3万円/月 |
金尾:じゃあ、少子化への対策はバッチリなんですね!
馬渕:まだ十分とは言えないと思います。児童手当の金額もまだまだ足りないという話も聞きますし、少子化トレンドを反転させるには至らないかもしれません。ただ、政府の方針のまんなかに「少子化対策」の文字が入ったことは、大きな前進なのではないでしょうか!
金尾:なかなか難しい問題なんですね…。
馬渕:私個人的には、「異次元の」と言うなら、子ども1人につき月額7万円くらいの給付があってもいいと思っているんですけどね。それくらいの手当てがあれば、あまり不安を感じずに子育てができると思いませんか?
金尾:たしかにそうですね!僕にも幸せな家庭が築ける気がします!
馬渕:少子化問題を解決するなら、本当に思い切った政策が必要かもしれません。
金尾:今回の「骨太の方針2023」を受けて、私たちの暮らしは変わるんでしょうか?
馬渕:お子さまがいる家庭にとっては、児童手当拡充などが生活の助けになっていくと思います。物価の上昇や、国民負担の増加などの不安要素は残りますが、賃上げなどが伴うことで、暮らしが向上する可能性は十分にあると思います。
金尾:僕たちが今できることはありますか?
馬渕:政府が教育への投資を推進しているということは、「学びたい」意欲を実行に移しやすい社会になると言えるでしょう。「リスキリング(新しいスキルの学び直し)」は、自分の価値を高め、賃金を上げることにもつながるのではないでしょうか。とくにIT人材は常に不足していると言われています。一念発起して学び直すことも、良い暮らしを手に入れるための手段かもしれませんよ!
金尾:この連載と同じで、やっぱり大切なのは「学び直し」なんですね!ありがとうございました!
まとめ
「骨太の方針2023」には、労働市場改革による構造的な賃上げ、人への投資の強化、そして少子化対策が盛り込まれました。これは働く人や子育てする人など、私たちの暮らしに密接に関わる内容だと言えます。では最後に、今回の学びのポイントを整理してみましょう!
- 岸田首相が掲げる「新しい資本主義」は、「成長と分配の好循環」と「コロナ後の新しい社会の開拓」を目指している
- 今までの新自由主義的政策を、一部見直してバージョンアップさせるのが「新しい資本主義」
- 「骨太の方針」とは、政府が年末の予算編成に向けて、改革の方向性を示す基本方針のこと
- 「骨太の方針2023」には、新しい資本主義の実現に向けて、「構造的賃上げ」や「人への投資の強化」、「投資意欲の向上」や「少子化対策」なども盛り込まれた
- 少子化対策が政府の軸となる政策に加わったのは、問題解決に向けた大きな一歩に
- 「学びたい」気持ちを実行に移しやすい社会だからこそ、自分の価値を高めるリスキリングを
経済アナリスト・馬渕 磨理子さんのわかりやすい解説で、「新しい資本主義」と「骨太の方針2023」のポイントについて理解できたのではないでしょうか。
ぜひ今回の記事をきっかけに、日本が目指す未来の方針と、ご自身の生き方や働き方について考えてみてくださいね。
- 取材・文:庄子洋行
- 撮影:竹下朋宏
ソナミラ株式会社 金融商品仲介業者 関東財務局長(金仲)第 1010号