【30代からの学び直し】150円は「円安」で100円は「円高」ってどういうことなの?為替の不思議を徹底解説
「円安で物価が上昇!」「今度は円高が進行中!」と、為替相場の話題が連日テレビのニュースを賑わせています。「そもそも、円安・円高ってなに?」「どうしてお金の価値が変わるの?」と、疑問に思いながら「でも、いまさら人に聞けないし……」と悩む方も多いのではないでしょうか。そんな悩みを持つ者がここにも1人……。男の名前は「金尾 学(かねお まなぶ)」。しかし、彼が他の人と違ったのは、恥も外聞もなく「学ぶ意欲」を持っていることなのです。 金尾「150円だと「円安」で、100円だと「円高」ってどういうことなんだぁぁ! 誰か教えてくれぇぇぇ!!」
??「お困りですか? 私が解説しますよ!」
そこに偶然、本当に偶然、通りかかったのは、テレビのコメンテーターとしても大活躍中の経済アナリスト・馬渕 磨理子(まぶち まりこ)さん!
金尾「これは救世主! まさに女神! ぜひ『お金』について、教えてくださいぃぃ!!!」
今回の「30代からの学び直し」では、経済アナリスト・馬渕 磨理子さんに、イマイチわかりにくい「為替」のこと、「円高・円安」についてわかりやすく解説していただきました!
<登場人物紹介>
馬渕 磨理子さん
一般社団法人 日本金融経済研究所 代表理事。コメンテーターとしてテレビ各局に出演し、ラジオ番組のレギュラーも持つ人気経済アナリスト。通称「うまちゃん」。
金尾 学
30代のとにかく学びたい男。学ラン姿にグルグル眼鏡のトラディショナルスタイルが特徴。いかにも真面目そうな外見だが、その実態は……?
お金の価値ってなんで変わるの?
金尾:さっそくですが、そもそもお金の価値ってなんで変わっちゃうんですか? 1ドル100円って決めたほうがわかりやすくないですか?
馬渕さん:それは、日本が変動相場制を採用しているからです。変動相場制は為替レートを「1ドル○円」のように固定せず、通貨の需要によって変動する制度なので、お金の価値が自然と変わっていくんです。
金尾:なんで、そんな面倒くさいことを……。
馬渕さん:今の国際社会では、ほとんどの国が変動相場制を採用しています。中国に関しては、値動きの幅がある程度決められている「管理変動相場制」になっていますが。
金尾:日本にも「1ドル=360円」! 以上、終わり! みたいな時代があったと聞いてますけど。
馬渕さん:日本における固定相場制は、戦後からしばらく続いていました。1ドル360円や1ドル308円などはその頃のお話ですね。1973年からは変動相場制に移行して、現在に至ります。
金尾:変動相場制に変えたのはどこの誰だ! 説教してやりたい!
馬渕さん:アメリカの意向ですね。きっかけはニクソンショック(※1)でした。ドルの価値が下がり、固定相場制を維持できなくなったんです。
金尾:くっ……。巨大な国家には逆らえない……。じゃあ、変動相場制には何かメリットがあるんですか?
(※1)1971年、当時のニクソン大統領がドルと金の交換を一方的に停止すると発表し、世界経済に大きな影響を与えた事件。
馬渕さん:変動相場制の導入後、円高(ドル安)が進んだので、日本の国際競争力が失われて、輸出企業は苦しい思いをすることになります。ただ、固定相場制で為替レートを保つためには、経済的に大きな影響力・存在感を持つ国、平たく言えばアメリカの金融政策に追随・依存しなければなりません。変動相場制に変わったことで、自国の金融政策を自分たちで決められるようになったのはメリットだとも言えます。
金尾:自由を得るためには、痛みを伴う……と。
馬渕さん:まあ、そんな感じです。
円安と円高、どっちがどっちかわからない!
金尾:変動相場制についてはわかりました。では、150円のときが「円安」で、100円のときが「円高」ってどういうことなんですか? 数字が高いほうが「安い」って、変だと思います。
馬渕さん:たしかに、すごくわかりづらいですよね。では、こう考えてみてください。アメリカでは1ドルで売られているコーラがあります。これを輸入するとき、1ドルが100円だといくらになりますか?
金尾:当然100円でしょう!
馬渕さん:では、1ドルが150円だと?
金尾:150円!
馬渕さん:150円の場合は、「お金=円」がより多く必要になった。つまり円の価値が下がったということです。なので、円が安くなった=円安という意味になるんです。
金尾:なるほ……ど?
馬渕さん:量で考えたほうがわかりやすいですかね? 300円で買えるコーラの本数は、1ドル100円だと「3本」。1ドル150円だと「2本」。300円の価値を考えると、1ドル100円のときはコーラ3本分と「高く」、1ドル150円のときはコーラ2本分と「安く」なるんです。
金尾:そうか! 「同じお金で買える量が減る=円の価値が下がって、安くなっている」つまり「円安」ってことなんだ!
全く知識がなかった金尾も、馬渕さんの親切な説明で為替=お金の価値の動きということに納得
馬渕さん:その通り! いつも混乱してしまう方は、外国から輸入するときに「円」の価値がどうなっているかを考えてみるとわかりやすいと思います。
金尾:なんか、いい覚え方とかないですか?
馬渕さん:今のコーラの例を思い出すといいかもしれませんね! 「円安のせいで輸入品が高くなって、物価が上がっている」というのが心に刻まれたと思うので。「じゃあ輸入品が高くなっているということは?」と導き出していくのも1つの方法です。
円高・円安の影響は?円の価値が高い「円高」の方がいいの?
金尾:今、「円安で国民の暮らしが大変」って盛んに言われていますけど、そうであれば「円高」のほうがいいんですか? 円の価値が高くなるんですよね?
馬渕さん:一概にそういうわけではないんです。円安・円高にはいろいろな側面があり、一長一短があるので。
金尾:えっ! どういうことですか!?
馬渕さん:たとえば「円安」のわかりやすい影響は、現在ニュースなどでも言われているように、「ガソリンなどエネルギーの価格が高騰する」「小麦や食用油など、輸入に頼っている品物・原料の価格が高くなる」ということです。
金尾:ほら! 円安は悪影響があるじゃないですか!
馬渕さん:しかし一方で、国内で作った品を輸出する際には、安い値段で売れることになります。1万5,000円の自動車で考えてみましょう。
金尾:さすがに安すぎるでしょ。
馬渕さん:たとえばの話です。1ドル100円の「円高」だと、1万5,000円の自動車はアメリカでは150ドルで販売されます。
金尾:安い。
馬渕さん:でも1ドル150円の「円安」だと、なんと100ドルで購入できちゃうんです!
金尾:アンビリーバボー! もっと安くなりますね。
馬渕さん:このように「円安」は長期的に考えると、世界に向けて販売するときの「日本の競争力」につながります。経済学の世界では、円安は日本経済にとってプラスになるというのが一般的な考え方なんです。
金尾:なるほど。
馬渕さん:あと、インバウンド・観光業界は円安のほうが恩恵を受けられます。海外から来る人は自国の通貨が高くなる分、彼らにとっては少ないお金で多くのものが買えますから。もっとも、コロナ禍の状況が好転しなければ、インバウンド産業の復活は遅れてしまうかもしれませんが……。
金尾:円安で、海外から日本への旅行がお得になるんだ。
馬渕さん:日本は観光立国としてのポテンシャルが高いと言われています。円安は海外からの観光客を呼ぶにあたって、大きな味方なんです。
金尾:いいことだらけだ。
馬渕さん:しかし、円安が加速しているなかでは、先ほども言ったように原料などを高い価格で買わなければならず、結果として物価が上がり、消費者はダメージを受けます。とくに、2022年10月に記録した1ドル=150円ほどの「過度な円安」は、消費者心理にも悪影響を与え、景気の停滞に拍車をかけてしまいます。
金尾:「物価が上がって、経済的に厳しいからお金を使いたくない」なんて声も聞こえてきますよね。
馬渕さん:昔から言われていることですが、「景気は『気』から」。消費者の気持ちは景気に大きく影響します。130円程度が「一番いい円安」と見られているので、それくらいの適度な水準で安定すると、日本経済にとってプラスになるはずです。
金尾「この10ドルも、日本円にすると1,000円になったり1,100円になったりするのかあ」
金尾:なるほど。お酒も円安も、適度がいいということですね……。ありがとうございます! とっても勉強になりました。もう為替マスターを名乗ろうと思います!
馬渕さん:いえいえ、どういたしまして。為替ってめちゃくちゃ面白くないですか? 為替の世界ではやっぱり、アメリカのドルが「覇権」を持っているんですよ。為替の動きを見ていると、ドルで世界は動いているなというのを再認識させられると思うんです。
金尾:え、はい(なんか急にスイッチが入った……)。
馬渕さん:経済の世界での競争は、結局のところ、アメリカが優位を保っています。それは覆せない絶対的なもの。唯一そこに対抗しようとしているのが、中国の「人民元」であり、人民元が国際通貨になることで打倒ドルを目指し、それによって中国の経済での影響力を広げようとしているのが今の情勢です。為替を知ることで、世界の動きがよくわかるでしょ?
金尾:そ、そうですね。
馬渕さん:お金は一番リアルな人間の動きなので、本当に面白い! 社会の仕組みを一番理解できるのが「経済」なんです!
金尾:その気持ちが理解できるように、今後も精進します……。
まとめ
みなさんも「為替」について、そして「円高・円安」について、あらためて学ぶよい機会になったのではないでしょうか。では最後に、今回の学びのポイントを整理してみましょう!
- 日本が変動相場制を導入したのは1973年のこと。ニクソンショックによってドルと金の交換が停止され、アメリカの意向もあって採用される流れに。
- 「円安」と「円高」。理解するには、円の価値がどう変化したかを考えてみるのがポイント。
- 混乱したときは、「円安の影響で、物価が上がっている」という具体的な経済状況に思いを巡らせるべし。
- 「円安」は悪いことばかりじゃない。輸出企業やインバウンド業界にはプラスになる場合も。
- 為替を知ると、世界情勢がわかる!
経済アナリスト・馬渕磨理子さんのわかりやすい解説で、みなさんも「為替」についてよく理解できたのではないでしょうか。これで、職場や友だちとの会話に為替の話題が出てきても安心ですね。また、食卓でニュースを見ながら「また円安が進んだから食品も値上がりしそうだな」なんて呟いてみると、家族からの好感度が上がるかも……?
- 取材・文:庄子洋行
- 撮影:深堀雄介
ソナミラ株式会社 金融商品仲介業者 関東財務局長(金仲)第 1010号