【30代からの学び直し】植田新総裁にとって初めての「日銀金融政策決定会合」を解説!国民の生活への影響は?
2023年4月27日・28日、日本銀行(日銀)が「金融政策決定会合」を開催。4月9日に就任したばかりの植田和男日銀総裁にとって初となる本会合のニュースは、メディアで大きく取り上げられ、注目を集めました。「なるほど。これがニチギンのシナリオか…」。某経済新聞の記事を読み、つぶやく男がここに1人…。なんだか既視感を覚えるシチュエーションですが、やはり次の瞬間、彼は叫びます。「ニチギンキンユーセーサクケッテーカイゴーってなんなんだぁぁぁ…誰か教えてぇぇぇ!!」。なんということでしょう。彼は当然のように、世間で何が起こっているかをまったく理解できていなかったのです。
???:この始まり方にも、だんだんと慣れてきました!私が説明しましょう!
呼ばれても、飛び出てもいませんが、そこに偶然通りかかったのは、テレビのコメンテーターとしても大活躍中の人気経済アナリスト・馬渕磨理子(まぶち まりこ)さん!
金尾:先生~!もう漢字だらけで意味がわからないんですぅぅ!助けてくださいぃぃぃ!
今回の「30代からの学び直し」では、経済アナリスト・馬渕 磨理子さんに、日本銀行のそもそもの役割や「日銀金融政策決定会合」で決められている内容を、わかりやすく解説していただきます!
<登場人物紹介>
馬渕 磨理子さん
一般社団法人 日本金融経済研究所 代表理事。コメンテーターとしてテレビ各局に出演し、ラジオ番組のレギュラーももつ人気経済アナリスト。通称「うまちゃん」。
金尾 学
30代のとにかく学びたい男。学ラン姿にグルグル眼鏡のトラディショナルスタイルが特徴。いかにも真面目そうな外見だが、その実態は…?
「日本銀行(日銀)」って何をするところなの?
金尾:「ニチギンキンユーセーサクケッテーカイゴー」。漢字10文字はやりすぎじゃないですか!?
馬渕:言葉を分解するとわかりやすいかもしれないですね。「日本銀行(以下、日銀)」が「金融政策」を「決定」する「会合」ということです。
金尾:なるほど確かに…。つまり…どういうことですか?
馬渕:…そもそも金尾さんは、日銀がどんな機関なのか、ご存じですか?
金尾:ええっと、日本で1番偉い銀行です!
馬渕:偉い…というわけではありません。日銀には、3つの大きな役割があります。政府のお金を預かる「政府の銀行」。民間の金融機関を対象にお金を預かり、貸出を行う「銀行の銀行」。そして、お札を発行する「発券銀行」です。
金尾:お金を作っているんですか!
馬渕:お札をよく見てください。何と書いてありますか?
金尾:ホントだ!「日本銀行券」って書いてある!
馬渕:日銀は日本の「中央銀行」として、「金融政策」を決め、その実行にあたっています。
金尾:へ?「政策」って、政府が決めるものじゃないの?
馬渕:国の基本方針を決定して実行するのは政府ですが、「金融政策」については日銀が政府の干渉を受けず、独立して決めています。
金尾:なんと!やっぱり偉い!
馬渕:日銀の金融政策は、「物価の安定」と「金融システムの安定」の2つを目的にしています。物価は、前回説明した通り世の中のものの値段のことです。急に上がったり下がったりすると、国民や企業の経済活動に悪影響を与えてしまう場合もありますね。
金融システムの安定とは、たとえば街にあるさまざまな銀行は銀行同士でお金のやり取りをしています。金尾さんも、自分の取引銀行から別の銀行の口座へ振り込みをすることがありますよね?
金尾:はい。
馬渕:こうした銀行間の決済は、日々行われています。そのなかでは、ある銀行が企業などに多額のお金を貸しているなどで(本来は十分な資産があるのにもかかわらず)現金が不足して決済ができなくなってしまうケースも想定されます。
そうなると、「あの銀行は潰れてしまうのでは?」と疑念が湧き、市場に混乱が生じてしまいますね。それを避けるために日銀は銀行に融資をしたり、銀行の経営状態を把握して助言したりしています。
つまり、日銀は物価と金融システムの安定を達成するために、さまざまな業務を行っているんです。
金尾:日銀は、具体的にはどんな金融政策を行うんですか?
馬渕:まず、政策金利を引き下げて、マーケットに出回るお金をふやす「金融緩和」。そして、政策金利を引き上げる「金融引き締め」が一般的です。日銀が金融機関との間で、国債などの資産を売り買いして、金利を調整する「公開市場操作(オペレーション)」も、金融政策の1つです。
金尾:なるほど!「国債の長期金利」のときに学んだ、金利が下がると企業がお金を借りやすくなるから、結果的にお金が循環するってやつですね!
馬渕:そうです!金尾さん、成長していますね。
金尾:日銀がそのバランスを調整して景気を良くするのが、日銀金融政策決定会合ということか!僕たちが日銀に直接関わることはできないんですか?そんなにすごい銀行なら、僕のなけなしのお金を預かってほしい…。
馬渕:日銀では個人口座は作れません。先ほども言ったように、日銀の役割は「政府の銀行」「銀行の銀行」だからです。一方で、「出資証券」という株券のような有価証券を発行しており、個人でも所有が可能となっています。
ただし、2022年4月に東証の市場区分が変わったとき、日銀の出資証券はプライム、グロース、スタンダードのいずれにも上場せず、東証のなかで証券を現物で取引するという形をとりました。そのため、一般の人には非常に取り扱いが難しい有価証券と言えます。
また、法律で日本政府が55%の出資割合を維持することが決められているうえに、出資者に議決権はないため、出資証券をもっていれば深く日銀と関われるわけでもないですね。
日本経済の舵を取る「日銀金融政策決定会合」とは
金尾:日銀が国にとって重要な役割を担っていることはわかりました!でも、新聞のトップに記事が載るくらい日銀金融政策決定会合は大切な話し合いなんですか?
馬渕:もちろん!日本経済の行く末を決めるといってもいいくらい大事な会合なんです。とくに4月27日と28日の日銀金融政策決定会合は、植田新総裁にとって初ということで、大きな注目を集めていました。
金尾:いつ、どんな人たちが、そんな重要なことを決めているんですか?僕にはまだオファーが来ていませんけど…。
馬渕:日銀金融政策決定会合は、政策委員会という日銀の最高意思決定機関が年8回、それぞれ2日間にわたって話し合います。委員会のメンバーは総裁と、2人の副総裁、審議委員が6人の計9人で構成されていて、いずれも内閣が任命しています。
金尾:最高意思決定機関!なんかかっこいい響き!
馬渕:市場関係者が注視している大イベントの一つなので、会合の結果次第では株価が大きく変動することもあるんですよ!
金尾:そんなに大きな影響が…。
馬渕:それだけ経済への影響力の大きい政策決定なので、会合終了後、すぐに決定内容が公表されます。ただし、議事録は「10年後」に公表する決まりになっています。
金尾:10年後!忘れた頃にやっと届く、先まで予約がいっぱいの人気コロッケ屋みたいだ!
馬渕:任期中に委員会のメンバーの細かい発言がオープンになってしまうと、個人批判の的になってしまうことが考えられます。正しい判断や発言ができるよう、配慮されているわけです。
金尾:なるほど!日本の経済を背負う9人へのプレッシャーはすごいでしょうね…。
馬渕:だからこそ、日銀の金融政策は、政府からの独立性の確保が図られています。世界的な歴史を見ても、各国の中央銀行には政府から「金融緩和」を求める圧力がかかりやすいと言われているので…。
金尾:今の委員会メンバーは、どんな人たちが集められているんですか?
馬渕:総裁の植田さんは、経済学者出身です。そのほか、日銀にずっと勤めている方や財務省・民間企業出身の方、学者など、立場も考え方も異なる人が集められています。金融政策は、最終的に9名の多数決となるので、私はバランスの良い構成だと思っていますね。
金尾:日銀の人だけじゃないんだ。
馬渕:日銀の出身者だけだと、どうしても視野が狭くなってしまいますからね。さまざまな経歴の方々が、それぞれの立場の専門家として日本経済のことを話し合って政策を決定しているんです。
金尾:映画「アルマゲドン」の名シーンが思い浮かびました…。9人が横に並んで、日本経済の危機に命を賭して立ち向かっていくみたいな…。
馬渕:まーた、古いたとえを…。
金尾:政策委員会が政府の圧力に負けちゃった例とかはないんですか?
馬渕:国の重要な政策を決めているので、政府と日銀はあくまで協力関係なんです。あまりにも対立してしまうと、日本の経済は良くならないので。2013年には、当時の安倍政権の下、政府と日銀が歩調を合わせて、共同声明(アコード)を発表したことは、以前もお話しましたね。10年経った今も、そのときに合意した「2%の物価目標」という数値目標は継続されています。
金尾:それが、あの有名な…。
馬渕:そう!「アベノミクス」の第一の矢といわれる金融政策なんです。
植田体制で初めての会合のニュースをどう読み解く?
金尾:では、4月27・28日に行われた会合では、結局何が決まったんですか?記事を読んでも「現状維持」ということしかわかりません!
馬渕:金融政策については「現状維持」です。「2%の物価目標」についても継続して目指していくとされています。ただし、「レビュー」という言い方で、これまで25年間の金融政策を点検すると発表しました。
金尾:25年前というと、ちょうど「アルマゲドン」が公開された年ですね…。点検って、何をするの?
馬渕:「これまでの金融政策がどのように日本経済に影響を与えたのか」「何が悪かったのか」「どれが効果的だったのか」を振り返り、分析するということですね。
金尾:馬渕さんのような経済アナリストの方は、日銀金融政策決定会合のニュースのどこに注目しているんですか?
馬渕:決定内容はもちろんのこと、記者会見での発言も重要ですね。文章だけでは読み取れない言葉のニュアンスに、情報が詰まっているんです。記者の方々も細かく質問をするので、それに「どう答えるのか」を見ます。たとえば「この部分については、はっきりと言い切っているから、政策を変えるつもりはないな」とか「言葉を選んでいるから、のちのち変更する可能性があるな」とか、言葉に隠された「含み」を注視するんです。
金尾:そんな細かいところを見ているんですか!初回の植田総裁の会見はどうでした?
馬渕:「今までの金融政策を点検する」という発表は、なかなか難しいんですよ。「点検する」というと、「何か悪いことを見つけて、金融政策を変更する」と市場には捉えられてしまいます。「金融緩和」を行っている現在、日銀が金融政策を変更するというのは、「金融引き締めに転じる」というシナリオしか考えられないので、為替や株価にも大きく影響を及ぼす可能性があります。
金尾:なんと!まずいじゃないですか!
馬渕:でも植田さんは、それを回避するコミュニケーションを取っていたんです。「この点検は、短期的な目先の政策変更に結びつけるためのものではない」と明言していました。金融政策変更を前提とした点検ではないことを、丁寧に説明していたのが印象的です。なので、株価と為替には大きな影響がなかったんですよ!
金尾:日銀の総裁には、コミュニケーション力まで求められるんですね…。
馬渕:「検証」ではなく「レビュー」という今までとは異なる言葉を使ったことも、おそらく効果があったんですよね。「なぜレビューという名称になったのか」という記者からの質問もありましたが、植田さんは「あまり深い意味はない」と答えつつ、「25年を振り返らせてください」と、マイルドな返答を繰り返していました。
金尾:4月の日銀金融政策決定会合の内容をまとめると、日本の景気は上がっていくんですか?ソナミラOnline読者の皆さんの生活に、何か影響はありますかね?それと…僕は億万長者になれますか?
馬渕:植田さんは、「経済・物価情勢の展望(展望レポート)」のなかで「2%の物価目標を達成する」と何回もおっしゃっていました。「賃金上昇を伴う物価上昇」が実現するまでは金利を引き上げない、という強いメッセージを発していたわけです。一方で、「それは簡単ではない」という認識も示しています。
金尾:これまでに学んだように、賃金が上がり物価が上昇することで、日本の景気が良くなっていくんですね。
馬渕:植田さんは「これからも慎重に物事を進め、景気が腰折れするような金融政策は取らないだろう」という見方ができると思います。今の経済状況が大きく変わる出来事があった場合は別として、ひとまず先日の日銀金融政策決定会合が直接的に人々の生活を変化させてしまう可能性は低いと言えそうです。反対に、より良くしていくためにどういったレビューが発表され、日銀がどんな舵取りをしてくかを注視する必要があります。
金尾:よし!僕も過去の自分を振り返って、レビューしていきます!怠惰な生活態度を正すことを前提にはしませんが!
馬渕:そこは、しっかりと悔い改めていきましょうねー。
金尾:はーい…。
まとめ
今回の馬渕さんの解説で、日銀金融政策決定会合で実際に決められている内容がわかりましたね。最後に、学びのポイントを整理してみましょう!
- 日本銀行(日銀)とは、「政府の銀行」「銀行の銀行」「発券銀行」の3つの役割をもつ、日本の中央銀行
- 日銀は物価と金融システムを安定させるため、日本の金融政策を決めている
- そのために「日銀金融政策決定会合」として、日銀の政策委員会メンバー9人で年8回の話し合いをしている。
- 新しく就任した植田総裁は経済学者出身。その脇をさまざまな経歴をもつメンバーが固め、日本経済の舵取りをしている
- 4月に行われた会合では、金融政策の「現状維持」が発表された。さらに過去25年の金融政策を振り返る「レビュー」も行われることになった
- 会見での総裁の言い回し、ニュアンスに注意!言葉の裏を読み解こう
なお、次回の「経済・物価情勢の展望」が公表される会合は7月27日と28日です。
次に「金融政策決定会合」のニュースを見たときは、これまでより理解が進み、経済の動きに興味がもてるのではないでしょうか。
- 取材・文:庄子洋行
- 撮影:豊島望
ソナミラ株式会社 金融商品仲介業者 関東財務局長(金仲)第 1010号