相続税の計算はどう行う?税金がかかるとき、かからないときも解説
親が高齢になったり病気で入院していたりすると、万が一のことを考え、相続税について気になる人もいるのではないでしょうか? 財産を相続する際にかかるのが、相続税です。具体的に相続税を計算しようと思っても、計算方法がわからないという人も多いでしょう。また、受け継ぐ財産が、どのくらいまでなら相続税がかからないのかも気になるところです。 本記事では、相続税の計算方法や、実際に相続税がかかるかを判断する方法を解説します。
相続税とは
相続税とは、亡くなった人(被相続人)から受け継いだ財産が、一定額を超える場合にかかる税金です。具体的には、相続財産から借金や葬儀費用を差し引くなどした後の金額(正味の相続財産)が、相続税の基礎控除額を下回っていれば課税されません。相続税として納めた税金は、社会に広く使われていることから、相続税には資産を再分配する機能があります。また、相続財産が大きいほど相続税額は大きくなるので、生まれた家庭環境の経済格差を縮小させ、親の経済格差が子に引き継がれる固定化を防止する機能もあります。
相続税がかかるかを判断する方法
課税の有無は、正味の相続財産(課税価格)が相続税の基礎控除額以内に収まっているかどうかで判断します。もし相続税の基礎控除額以内であれば、相続税がかからないため相続税の申告は不要です。また相続税の課税対象にならない財産もあります。
基礎控除額や、相続税の課税対象になる財産とならない財産について具体的に解説します。
相続税の基礎控除額
相続税の基礎控除額とは、相続税の計算で使える非課税枠といえます。次の計算式で算出します。法定相続人とは、民法で定められた相続人のことを指します。
3,000万円+(600万円×法定相続人の数)=相続税の基礎控除額
相続税の課税対象になる財産
相続税の課税対象になる財産は、「本来の相続財産」「みなし相続財産」「特定の贈与財産」の3つに大きく分けることができます。
(1)本来の相続財産
本来の相続財産とは、被相続人が亡くなった時に所有していた金銭に見積もることができるすべての財産のことです。
本来の相続財産の例(筆者作成、以下同)
金融資産 | 現金、預貯金、有価証券など |
---|---|
不動産 | 土地、建物など |
動産 | 自動車、宝石など |
権利 | 特許権、ゴルフ会員権など |
(2)みなし相続財産
みなし相続財産とは、被相続人から承継した本来の相続財産ではないものの、相続したとみなして相続税が課される財産のことです。被相続人が亡くなったことに伴い支払われる死亡保険金や死亡退職金などが該当します。
(3)特定の贈与財産
特定の贈与財産とは、相続時精算課税制度の適用を受けた贈与財産や、被相続人が亡くなる前3年以内の贈与財産のことです。
相続税の課税対象にならない財産
相続税の課税対象にならない財産は、墓地や仏壇、仏具など日常礼拝をしている物や、国や地方公共団体へ寄附した財産などです。ただし、礼拝対象財産のうち、仏壇などが純金製などの高価なものや骨董的価値があるものについては課税対象になる可能性があります。死亡保険金や死亡退職金などは、一定額まで相続税がかかりません(後述あり)。
債務控除
相続税を計算するときは、被相続人が残した債務は相続財産から差し引くことができます。葬式費用は債務ではありませんが、相続税を計算するときは相続財産から差し引くことができます。
債務
負債 | 借金、ローンなど |
---|---|
未払金 | 医療費、所得税など |
相続税を計算する上で知っておくべきこと
相続税を計算する上で、実際に相続した場合の法定相続人や、法定相続分を知っておかなければなりません。民法に定められている法定相続人と法定相続分、また法定相続人に認められている遺留分について解説します。
法定相続人と法定相続分
法定相続人とは、民法に規定された相続の権利がある人のことで、相続人の範囲も相続する順位も民法で定められています。法定相続分とは、民法で定められた相続分のことで、相続順位によって異なります。被相続人が遺言書を作成していれば、遺言書で指定した相続分が法定相続分に優先します。遺言書が作成されていなければ、相続人が話し合って相続財産の分け方を決めます。話し合いがまとまらない場合は、法定相続分を基準に相続することとなります。
法定相続人は、被相続人の配偶者、子、直系尊属、兄弟姉妹です。相続人の順位は第1順位から第3順位まであり、法定相続分は順位によって異なります。なお配偶者は常に相続人です。ただし配偶者と認められるのは、法律上婚姻している配偶者であり、事実婚や離婚している場合は対象外となります。
法定相続人の順位とそれぞれの法定相続分は次のとおりです。
法定相続人と法定相続分
順位 | 法定相続人 | 法定相続分 |
---|---|---|
第1順位 | 亡くなった人の子ども(※1) | 配偶者1/2 子ども1/2(2人以上のときは全員で均等に) |
配偶者がいない場合 | 子ども1/1(2人以上のときは全員で均等に) | |
第2順位 | 亡くなった人の直系尊属(※2) | 配偶者2/3 直系尊属1/3(2人以上のときは全員で均等に) |
配偶者がいない場合 | 直系尊属1/1(2人以上のときは全員で均等に) | |
第3順位 | 亡くなった人の兄弟姉妹(※3) | 配偶者3/4 兄弟姉妹1/4(2人以上のときは全員で均等に) |
配偶者がいない場合 | 兄弟姉妹1/1(2人以上のときは全員で均等に) |
※1:既に子どもが亡くなっていれば、直系卑属である孫などが代襲相続
※2:直系尊属とは父母や祖父母など。父母も祖父母もいるときは、被相続人により近い世代である父母の方が優先される
※3:既に兄弟姉妹が亡くなっていれば、その人の子ども(甥や姪)が代襲相続
代襲相続とは、相続人になるべき人が相続開始以前に亡くなっている場合や、相続権を失っている場合に直系卑属が代わりに相続することです。なお相続人が相続放棄した場合は、直系卑属に代襲相続されません。
法定相続人に認められた遺留分とは
兄弟姉妹以外の法定相続人には、一定割合の相続分を確保できる遺留分制度があり、この割合のことを遺留分といいます。遺留分を侵害された場合、相続財産に対してそれぞれの遺留分割合分まで請求できます。遺留分を請求する権利がある法定相続人と遺留分の割合は次のとおりです。
遺留分割合
対象者 | 遺留分割合 |
---|---|
配偶者や子ども | 被相続人の相続財産の1/2 (2人以上のときは全員で均等) |
直系尊属 | 被相続人の相続財産の1/3 (2人以上のときは全員で均等) |
兄弟姉妹 | なし |
たとえば遺言において、法定相続人とは別の人にすべての相続財産を取得させることが明記されていた場合でも、配偶者や子どもがいれば遺留分侵害額請求を行って、遺留分を取り戻せます。
相続税の計算方法
実際に相続が発生した場合に、どのように相続税を計算していくかについて解説します。
相続税計算の全体像
相続税は、相続税の総額×(各相続人の課税価格÷課税価格合計額)で計算します。大まかな流れは次のとおりです。
相続税が課税される課税価格の合計額を計算
↓
相続税の基礎控除額を引いた課税遺産総額を計算
↓
相続税の総額を計算
↓
各相続人の相続税納付額を計算
実際に相続税を計算するための具体例をみてみましょう。
亡くなった人の財産とその評価額は次のとおりとします。
亡くなった人の財産 | 財産評価額 |
---|---|
現金 | 700万円 |
預貯金 | 1,000万円 |
死亡保険金 | 3,000万円 |
死亡退職金 | 2,000万円 |
不動産 | 5,000万円 |
借入金 | 500万円 |
葬儀費用 | 300万円 |
相続人とそれぞれの遺産分割内容は次のとおりです。なお相続人は配偶者、長女、長男、次男の4人とします。また小規模宅地等の特例や、相続時精算課税、相続開始前3年以内の贈与財産はないものとします。
相続人 | 遺産分割内容 |
---|---|
配偶者 | 不動産:5,000万円 葬儀費用:300万円 |
長女 | 死亡退職金:2,000万円 |
長男 | 死亡保険金:3,000万円 借入金:500万円 |
次男 | 現金:700万円 預貯金:1,000万円 |
相続税の基礎控除額と非課税枠の計算
相続税の基礎控除額はすでに紹介したとおりです。また相続財産の中には、金額の一部に非課税枠があり、その残り分に課税されるものがあります。相続税の非課税枠がある財産は「死亡保険金」と「死亡退職金」です。それぞれ次の計算式で算出します。
500万円×法定相続人の数=非課税限度額
相続税の課税遺産総額を計算するために、相続税の基礎控除額と、死亡保険金と死亡退職金の非課税枠を計算します。
相続税の基礎控除額
3,000万円+(600万円×法定相続人4人)=5,400万円
死亡保険金の非課税枠
500万円×法定相続人4人=2,000万円
死亡退職金の非課税枠
500万円×法定相続人4人=2,000万円
死亡保険金が3,000万円となるため課税価格は1,000万円であり、死亡退職金は非課税枠と同じ金額となるため課税されません。
課税遺産総額の計算
課税遺産総額は次のように計算していきます。
現金700万円+預貯金1,000万円+不動産5,000万円=6,700万円
死亡保険金3,000万円-非課税枠2,000万円=1,000万円
死亡退職金2,000万円-非課税枠2,000万円=0円
借入金500万円+葬儀費用300万円=800万円
借入金と葬儀費用はマイナス財産となるため、課税遺産総額から差し引くことになります。
6,700万円+1,000万円-800万円=6,900万円
課税価格の合計額6,900万円から相続税の基礎控除額5,400万円を差し引きます。
6,900万円-5,400万円=1,500万円
課税遺産総額は1,500万円となります。
なお各相続人の課税価格は次のとおりです。
各相続人 | 各相続人の課税価格 |
---|---|
配偶者 | 不動産5,000万円-葬儀費用300万円=4,700万円 |
長女 | 死亡退職金2,000万円-非課税枠2,000万円=0円 |
長男 | 死亡保険金3,000万円-非課税枠2,000万円-借入金500万円=500万円 |
次男 | 現金700万円+預貯金1,000万円=1,700万円 |
各相続人の課税価格の計算
各相続人の課税価格は、課税遺産総額1,500万円を各相続人の法定相続分に分けて、相続税の税率で計算します。
相続税の税率と控除額
法定相続分に応じた取得金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
1,000万円以下 | 10% | - |
1,000万円超 3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
3,000万円超 5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
5,000万円超 1億円以下 | 30% | 700万円 |
1億円超 2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
2億円超 3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
3億円超 6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
6億円超 | 55% | 7,200万円 |
配偶者の課税価格
1,500万円×1/2×10%=75万円
長女の課税価格
1,500万円×1/6×10%=25万円
長男の課税価格
1,500万円×1/6×10%=25万円
次男の課税価格
1,500万円×1/6×10%=25万円
相続税の総額の計算
各相続人の課税価格から相続税の税率と控除額を計算し、その合計額である相続税の総額を算出します。
配偶者75万円+長女25万円+長男25万円+次男25万円=150万円
各相続人の納付税額の計算
課税遺産総額や、各相続人の課税価格、相続税の総額が計算できたら各相続人の納付税額を計算します。各相続人の課税価格は次のとおりです。なお千円未満は切り捨てとなります。
配偶者
相続税の総額150万円×各相続人の課税価格4,700万円÷課税価格合計額6,900万円
=102万1千円
長女
相続税の総額150万円×各相続人の課税価格0円÷課税価格合計額6,900万円
=0円
長男
相続税の総額150万円×各相続人の課税価格500万円÷課税価格合計額6,900万円
=10万8千円
次男
相続税の総額150万円×各相続人の課税価格1,700万円÷課税価格合計額6,900万円
=36万9千円
なお配偶者には相続税の税額軽減として配偶者控除があり、その控除額が1億6,000万円となるため納付税額102万1千円は0円になります。
相続税の税額控除
相続税にはさまざまな税額控除があります。代表的な税額控除として、配偶者控除、未成年者控除、障害者控除、相次相続控除、贈与税額控除を紹介します。
配偶者の税額軽減(配偶者控除)
配偶者控除は、配偶者が取得した相続財産のうち、1億6,000万円または配偶者の法定相続分相当額のどちらか多い方の金額を控除します。
未成年者控除
未成年者控除は、相続人が未成年者であれば相続税額から次の計算式で算出した金額を控除します。
10万円×未成年者が満18歳になるまでの年数
障害者控除
障害者控除は、相続人が85歳未満の障害者であれば相続税額から次の計算式で算出した金額を控除します。
10万円(特別障害者は20万円)×障害者が満85歳になるまでの年数
相次相続控除
相次相続控除は、今回の相続開始前10年以内に相続が発生していて相続税を払っている場合、相続税額から一定額を控除します。
贈与税額控除
贈与税額控除は、被相続人から相続開始前3年以内に暦年課税制度による贈与があり、贈与税を支払っていた場合、その贈与税にかかった金額分を控除します。相続時精算課税制度により贈与を受けた場合も、同様に扱います。
相続税の申告と納付
相続税の計算をしたら税務署に申告し、税金を納付する必要があります。相続税の申告期間や納付方法について解説します。
相続税の申告期間
相続税の申告期間は、被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から10か月以内です。また相続税の納付も申告期間内に行わなければなりません。
たとえば、1月1日に家族が亡くなり相続人も死亡の事実を認識している場合、その年の11月1日が申告期限となります。もし申告期間を過ぎて申告や納付をすれば、無申告加算税と延滞税が発生することがあるため注意が必要です。
相続税の納付は現金一括納付が原則
相続税は現金一括納付以外の方法として、延納や物納があります。しかし、延納や物納は申請すればできるわけではなくそれぞれ要件があります。
延納は相続税額が10万円を超えて、金銭納付が困難な理由がある場合に、困難な金額を限度に担保を提供すれば年賦で納付が可能となります。
物納は延納によっても金銭納付が困難な場合に、困難な金額を限度に一定の相続財産によって行うことができます。また物納できる財産には順位があります。第1順位となるものには、不動産や国債証券、上場株式などがあり、第2順位となるものには非上場株式などがあります。動産は第3順位となります。
相続税には早めの備えが大切
実際に相続税がかかるかを判断する方法や、相続税の計算方法について解説してきました。
相続税には基礎控除額があるとはいえ、自宅などの不動産を所有していれば、相続税の課税対象者になる可能性があります。相続が発生してから相続税の申告までは10か月しかなく、その間に相続財産を調査し、相続人同士の遺産分割協議、各種相続手続き、相続税の申告と納付を行わなければなりません。
万一に備えて、実際にどのくらいの相続税がかかるかを親子で確認し、あらかじめ財産目録を作成すると良いでしょう。また相続税がかかる可能性があれば、生命保険の非課税枠を活用したり、生前贈与を行ったりと、相続税への備えは早めに行うことをおすすめします。
■こちらの記事もおすすめです
相続について電話で無料相談できる窓口を紹介|法ナビ相続
ソナミラ株式会社 金融商品仲介業者 関東財務局長(金仲)第 1010号