亡くなった時、必要になるお金について|葬儀費やお墓の費用はいくら?
国民の約3割が65歳以上の高齢者となった日本では老後資金への関心が高まっていますが、「人が亡くなることに関するお金」について考えたことがあるでしょうか?
日々の生活に関わってくる老後資金に比べると関心は高くないかもしれませんが、人が亡くなるときもお金は必要です。大切な家族に負担をかけてしまったり、大切な人を失ったあとに自分に思わぬ負担がかかってきたりする可能性もあります。
この記事では、亡くなったときに必要になるお金や、亡くなったことで受け取れるお金、そして本人や家族は事前にどんな準備をすればいいのか解説します。
亡くなったときに考えなければならないお金とは?
大切な人が亡くなったとき、家族は主に次の3つに関するお金の問題や手続きに直面します。
- 葬儀やお墓にかかる費用
- 遺族に支給されるお金
- 亡くなった人の預金
それぞれの費用あるいは支給額、手続き、心構えなどを見ていきましょう。
葬儀やお墓にかかる費用
人が亡くなった後にかかるお金で、まず最初に思い浮かぶのは葬儀費用ではないでしょうか。その他にも、「お布施」や「お墓購入」も必要になることが多いです。終活関連サービス事業の鎌倉新書が実施した調査をもとに見ていきましょう。
葬儀費用の平均額と内訳(2022年調査)
葬儀費用の平均額 | 1,107,000円 |
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基本料金 | 678,000円 |
飲食 | 201,000円 |
返礼品 | 228,000円 |
- ※基本料金:斎場や火葬場の利用料、祭壇、棺、遺影、搬送費など葬儀を行うための一式
- ※飲食:通夜ぶるまい、告別料理などの飲食(変動費)
- ※返礼品:香典に対するお礼の品物(変動費)
出典:鎌倉新書【第5回お葬式に関する全国調査】(2022年)
お布施費用の平均額(2022年調査)
お布施費用の平均額 | 224,000円 |
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※お布施:寺院・教会・神社など宗教者への御礼
出典:鎌倉新書【第5回お葬式に関する全国調査】(2022年)
「葬儀」には平均でも100万円以上がかかっています。なお、飲食と返礼品の費用は参列人数によって変動し、規模によっては平均額を大きく上回るでしょう。「お布施」費用は、地域や宗教者との関係によっても変わります。お布施の相場を知りたいときは、お寺の担当者や葬儀社に相談すればわかります。
さらに、葬儀とお布施に加えて、故人が安らかに眠るための「お墓」を用意する費用もかかってきます。亡くなる前に準備している人が多いかもしれませんが、お墓購入には次のような費用がかかります。
お墓購入の平均額(2022年)
一般墓 | 1,587,000円 |
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納骨堂 | 836,000円 |
樹木葬 | 696,000円 |
出典:鎌倉新書【第13回】お墓の消費者全国実態調査(2022年)霊園・墓地・墓石選びの最新動向
3つのお墓の形態のうち「一般墓」の費用がひとつ抜きん出ていますが、墓石代だけでなく「土地利用料」と「その他諸経費」も必要になるためです。なお「樹木葬」とは、墓石の代わりに樹木を目印にするお墓の一種で、近年人気が高まっています。
亡くなってから通常は数日内に行われる葬儀だけでも、葬儀費用とお布施費用それぞれの平均額の合計は1,331,000円になります。葬儀では香典を受け取りますが、鎌倉新書によると、2022年の平均額は472,000円でした。香典を葬儀とお布施の費用に充てても、持ち出しは約86万円です。
葬儀に加えて用意しなければならない「お墓」は、形式によってそれぞれですが、最も高額な一般墓は約160万円、最も費用のかからない樹木葬でも約70万円かかります。
まとめると、人が亡くなったときにかかる費用は、数日内に行う葬儀とお布施に少なくとも約90万円です。これに加えて、もし亡くなってから急いでお墓を購入するとしたら、樹木葬を選んでも約70万円かかるため、葬儀・お布施と合わせて少なくとも約160万円が必要になります。
コロナ後の葬儀費用はどうなる?
葬儀に関わる費用は、実は新型コロナウイルスの影響で急減しています。葬儀費用の平均額は、2022年版調査が1,107,000円でした。ところが、前回の2020年版調査では、1,843,000円だったのです。
2022年版の調査対象は「2020年3月~2022年3月に葬儀に携わった経験のある人」で、つまりコロナ禍の2年間に葬儀を経験しています。2020年版の対象は「2017年9月〜2020年2月に葬儀に携わった経験のある人」でした。コロナ禍以前に比べ、葬儀費用は約74万円も減少しています。
コロナ禍によって葬儀の実施そのものが減少し、実施しても規模が縮小されたことから、費用の急減につながったとみられます。
新型コロナウイルスのパンデミックから3年、ようやくコロナ前のような日常生活が戻りつつあります。今後、葬儀費用にどのような影響を与えるのか、注視しましょう。
亡くなったとき、遺族に支給されるお金
大切な人が亡くなったとき、弔いのために費用はかかりますが、遺族に支給されるお金もあります。公的機関からもらえる主なお金には「遺族年金」と「死亡一時金」があります。それぞれ解説していきます。
遺族基礎年金・遺族厚生年金
遺族年金は、年金を受給していた人が亡くなったときに、その人によって生計を維持されていた人(=被扶養者)が受け取れる年金です。「遺族基礎年金」と「遺族厚生年金」に分かれています。
遺族基礎年金の受給要件
遺族基礎年金は、亡くなった人に生計維持されていた「子ども」または「子どものいる配偶者」であれば受給可能です。「子ども」とは、18歳になった年度の3月31日を迎えていない人、または20歳未満で障害年金の障害等級1級または2級の状態にある人をいいます。
そして、故人は、次の要件のうちいずれか1つを満たす必要があります。
1 | 国民年金の被保険者期間中に亡くなったとき |
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2 | 国民年金の被保険者であった60歳以上65歳未満の人で、日本国内に住所を有していた人が亡くなったとき |
3 | 老齢基礎年金の受給権者であった人が亡くなったとき |
4 | 老齢基礎年金の受給資格を満たした人が亡くなったとき |
出典:日本年金機構 遺族基礎年金(受給要件・対象者・年金額)
このうち要件1と2は、亡くなった日の前日までに保険料納付済期間(保険料免除期間含む)が、国民年金加入期間の3分の2以上でなければなりません。ただし、2026年3月末日までに65歳未満で亡くなった場合は、亡くなった月の前々月までの1年間に保険料の未納がなければ問題ありません。
要件3と4は、保険料納付済期間、保険料免除期間および合算対象期間(カラ期間)を合算した期間が25年以上ある人に限られます。
遺族厚生年金の受給要件
遺族厚生年金は、配偶者や子どもだけでなく、亡くなった人に生計維持されていた遺族も受給対象者となりますが、優先順位があり、「子どものある配偶者または子ども」「子どものない配偶者」「父母」「孫」「祖父母」の順です。
また、受給できる遺族には次のような条件があります。
妻 | 子どものない30歳未満の妻が受給できるのは5年間のみ |
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子ども | 18歳到達年度の末日(3月31日)を迎えていない人、または20歳未満で障害年金の障害等級1級または2級の状態にある人 |
夫 | 死亡当時に55歳以上の人。受給開始は60歳からとなるが、遺族基礎年金をあわせて受給できる場合に限り、55歳から60歳の間であっても遺族厚生年金を受給できる。 |
父母 | 死亡当時に55歳以上の人。受給開始は60歳からとなる |
孫 | 18歳到達年度の末日(3月31日)を迎えていない人、または20歳未満で障害年金の障害等級1級または2級の状態にある人 |
祖父母 | 死亡当時に55歳以上の人。受給開始は60歳からとなる |
そして、故人は、次の要件のうちいずれかを満たす必要があります。
1 | 厚生年金保険の被保険者期間中に亡くなったとき |
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2 | 厚生年金の被保険者期間中に初診日がある病気やけがが原因で初診日から5年以内に亡くなったとき |
3 | 1級または2級の障害厚生年金の受給者が亡くなったとき |
4 | 老齢厚生年金の受給権者であった人が亡くなったとき |
5 | 老齢厚生年金の受給資格を満たした人が亡くなったとき |
出典:日本年金機構 遺族厚生年金(受給要件・対象者・年金額)
要件1と2は、遺族基礎年金と同じく、亡くなった日の前日までに保険料納付済期間(保険料免除期間含む)が、国民年金加入期間の3分の2以上でなければなりません。ただし、2026年3月末日までに65歳未満で亡くなった場合は、亡くなった月の前々月までの1年間に保険料の未納がなければ問題ありません。
要件4と5は、保険料納付済期間、保険料免除期間および合算対象期間(カラ期間)を合算した期間が25年以上ある人に限られます。
遺族基礎年金・遺族厚生年金の受給額は?
遺族基礎年金と遺族厚生年金の年金支給額は次のように計算します。
遺族基礎年金 (2023年度) | 子のある配偶者 (67歳以下の人):795,000円+子の加算額(※1) (68歳以上の人):792,600円+子の加算額(※1) 子:795,000円+2人目以降の子の加算額 |
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遺族厚生年金 | 死亡した人の老齢厚生年金の報酬比例部分の4分の3(※2) |
出典:日本年金機構 遺族基礎年金(受給要件・対象者・年金額)、遺族厚生年金(受給要件・対象者・年金額)
- (※1)加算額:2人目の子まで1人当たり228,700円、3人目以降の子は1人当たり76,200円
- (※2) 報酬比例部分:平均標準報酬月額×7.125÷1,000×2003年3月までの加入月数+平均標準報酬額×5.481÷1,000×2003年4月以後の加入月数。報酬比例部分の計算において、厚生年金の被保険者期間が300月未満の場合は300月とみなして計算する。
なお、遺族基礎年金を受給していない妻は、40歳から65歳になるまでの間、596,300円(年額)が加算されます(中高齢寡婦加算)。また、65歳以上の妻が遺族厚生年金に加算して受け取れる給付に経過的寡婦加算があります。
実際に受け取れる年金額は、年金事務所に行って手続きを行うと計算してもらえます。
死亡一時金
死亡一時金は、国民年金の第1号被保険者(自営業者など)が亡くなった時に、保険料納付期間が36か月以上あり、死亡時に老齢基礎年金・障害基礎年金をまだ受給していなかった場合に、その人と生計を共にしていた遺族が受け取れる一時金です。保険料納付期間には、全額免除期間(法定免除含む)と若年者納付猶予期間、学生納付特例期間は含みませんが、4分の免除期間=4分の1の月数、半額免除期間=2分の1の月数、4分の3免除期間=4分の3の月数を含みます。
金額は保険料納付済月数および免除月数の合計月数によって異なりますが、12万円〜32万円です。
「遺族年金」と「死亡一時金」以外にも、故人が国民健康保険の加入者だった場合は、喪主に対して葬祭費が支給されます。自治体によって金額は異なりますが、3万円〜7万円が一般的です。
遺族がもらえるお金には時効がありますので、忘れずに手続きをしましょう。近年、死亡手続きに関する総合窓口の「おくやみコーナー」を設置する自治体が増えています。手続きが必要な窓口の案内や申請書などの作成支援を行ってくれますので、活用されることをおすすめします。
亡くなった人の預金の取り扱い
亡くなった人が名義人となっていた銀行口座は、相続手続きが完了するまで凍結されます。預金が消えることはありませんが、相続財産の確定と、相続での揉めごとを防ぐためです。
したがって、亡くなった人が生前に「葬儀費用は自分の口座から出してほしい」と伝えていても、凍結後は叶えられません。さらに、家族の生活資金をその口座で管理していた場合、残された家族は当面の生活費も引き出せなくなります。こうしたトラブルを避けるため、亡くなる前にいくつか準備しておきましょう。
残された家族のために事前の準備を
口座凍結前に、次のような準備をしておきましょう。
亡くなる前に当面の資金を引き出しておく
口座が凍結される前に、万が一のときを想定し、ある程度の資金を名義人に引き出しておいてもらいましょう。
生前贈与をしておく
生前贈与であらかじめ資金を家族に引き継いでおくことも有効です。受贈者(贈与を受ける人)1人あたり年間110万円までの贈与であれば贈与税もかかりません。
生命保険に加入しておく
万が一に備えて保険金が支払われる生命保険(死亡保険)に加入しておくのも一案です。保険金は預金のように凍結されることがなく、請求すれば受取人の指定の口座へ振り込まれます。請求に必要なすべての書類が保険会社に到着すると、一般的にその日を含めて5営業日以内に支払われます。
なお、民法改正により2019年7月から、遺産分割が成立する前でも、金融機関に申し出れば、相続人が単独で故人の名義の預貯金から払戻しを受けられる「預貯金の仮払い制度」が始まりました。この制度を使えば、金融機関に必要書類を提出することで、葬儀費用や生活費のために必要なお金を引き出すことができます。ただし、相続人が払戻しを受けられる金額には上限があります。上限金額は、「相続開始時の預貯金残高×1/3×法定相続分」までで、1金融機関につき最大150万円までとなります。
(例1)ある金融機関に故人の預金が600万円あり相続人は子ども2人の場合
相続人が単独で出金できる金額:100万円(600万円×1/3×1/2<150万円)
(例2)ある金融機関に故人の預金が1,200万円あり相続人は子ども2人の場合
相続人が単独で出金できる金額:150万円(1,200万円×1/3×1/2=200万円>150万円)
「預貯金の仮払い制度」を利用すれば、1金融機関あたり最大150万円までお金を引き出すことはできます。しかし、戸籍謄本等の必要書類を準備する手間や払戻しを受けるまでに時間がかかることなどを考えると、できるだけ口座凍結前に事前準備をしておいた方がよいでしょう。
人生の最期に向けた準備をしよう
大切な人が亡くなったとき、その悲しみが癒える間もなく葬儀費用の支払いに直面します。お墓がなければ用意しなければいけません。葬儀やお墓に100万円前後の費用が必要だと想定した上で、生前贈与などの準備も必要です。
実は亡くなる直前にも、必要になる可能性が高い費用があります。死期に向けて行われる終末期医療の費用です。高額療養費制度で費用のほとんどはカバーできそうですが、どこまでケアをするのか、延命治療は行うのかなど、本人を含めて家族で事前に話し合っておく必要があるでしょう。
大切な人が亡くなったときのお金について考えるのは、誰でも嫌なことでしょう。しかし、準備がないまま「万が一」のことがあれば、困るのは残された家族です。家族みんなで話し合い、準備しておきましょう。
ソナミラ株式会社 金融商品仲介業者 関東財務局長(金仲)第 1010号