社会保険料の自己負担額と内訳、知っておきたいポイント
会社員の毎月の給料(給与)から引かれている厚生年金保険料や雇用保険料などの社会保険料。項目ごとに負担割合が違うことはご存知でしょうか。社会保険料負担に関する正しい知識を身につけていきましょう。
社会保険料は全部で5種類!それぞれの自己負担割合は?
社会保険の種類によって自己負担の割合は異なります。多くの場合、事業主との折半です。
健康保険料
公的医療保険制度は病気やけがに備えるための公的保険であり、会社員が加入する「健康保険」、公務員が加入する「共済組合」、自営業者やフリーランスなどが加入する「国民健康保険」に分かれています。原則として75歳以上になると「後期高齢者医療制度」に加入します。日本は国民皆保険制度を導入しているため、いずれかに加入しなければなりません。
公的医療保険に加入していると、医療費の窓口負担が現役世代の場合3割になるほか、医療費の支払いが一定額を超えたときに還付を受けられる高額療養費制度や、病気やけがで仕事を休んだときに給付が受けられる傷病手当金などが利用できます。
会社員が加入する「健康保険」の運営主体は、「全国健康保険協会(協会けんぽ)」と「健康保険組合」の大きく2つに分けられ、それぞれ保険料水準は異なっています。健康保険料は、事業主と従業員が折半で支払うため、自己負担割合は5割です。事業主が若干多く負担する健康保険組合もあります。
厚生年金保険料
公的年金制度は老齢・死亡・障害に備えるための公的保険であり、2階建て構造と言われています。20歳以上60歳未満の全国民が加入する1階部分が「国民年金(基礎年金)」、会社員や公務員が加入する2階部分が「厚生年金保険」です。
ちなみに、企業が導入したり個人が任意で加入する3階部分として私的年金制度があり、各種の企業年金、国民年金基金、個人型確定拠出年金(iDeCo)などがあります。
公的年金から受け取る年金額は、年金の加入期間や支払った年金保険料などに応じて決まります。老齢年金の場合、受給できるのは原則として65歳からです。
会社員が加入する厚生年金の保険料は、事業主と従業員が折半で支払うため、自己負担割合は5割です。なお、厚生年金保険料を支払っている間は、国民年金保険料を支払うことなく国民年金にも加入している扱いになります。
介護保険料
公的介護保険制度は介護や認知症に備えるための公的保険であり、介護や介護予防に必要な費用の一部を給付する制度のことです。40歳以上の人は全員加入することになっています。65歳以上の人は第1号被保険者、40歳から64歳までの人は第2号被保険者として区分されます。
介護保険の第2号被保険者のうち会社員は、事業主と折半で介護保険料を支払うため、自己負担割合は5割です。
雇用保険料
雇用保険制度は失業に備えるための公的保険であり、基本手当(いわゆる失業手当)や教育訓練給付金などが受けられます。「1週間の所定労働時間が20時間以上であること」「31日以上の雇用見込みがあること」の2つの条件を満たす場合に加入が必要です。
雇用保険料の自己負担割合は、業種によって異なります。
令和4年10月1日~令和5年3月31日現在の雇用保険料負担率(労働者へ支払われる給与・賞与に対する負担率)は以下のとおりです。
労働者負担 | 事業主負担 | |
---|---|---|
一般の事業 | 0.5% | 0.85% |
農林水産・清酒製造の事業 | 0.6% | 0.95% |
建設の事業 | 0.6% | 0.105% |
出典:令和4年度雇用保険料率のご案内(厚生労働省)
労災保険料
労災保険制度は業務上や通勤途上のけがや病気に備えるための公的保険であり、療養給付や休業給付などが受けられます。原則として1人でも労働者を雇用する事業主は加入しなければなりません。労災保険における労働者にはアルバイトやパートタイマーも含まれます。
労災保険料は、厚生労働省から提示される労災保険料率に基づいて、事業主が保険料の全額を支払うことになっています。そのため労働者の自己負担はありません。
標準報酬月額とは?
会社員の社会保険料のうち、健康保険料・厚生年金保険料・介護保険料を算出する際の基準となるのが「標準報酬月額」です。標準報酬月額とは、毎月の給与(報酬月額)を金額ごとにいくつかの等級に区分したものです。たとえば、毎月の報酬が「31万円〜33万円」の場合、標準報酬月額は「32万円」と決められています。基本給だけではなく、通勤手当や残業手当、住宅手当なども報酬月額の対象となります。
標準報酬月額は、毎年4〜6月の報酬月額を基に見直され、9月から翌年8月までの各月に適用されます(定時決定)。ただし、報酬月額に大きな変化があった場合は、定時決定を待たずに標準報酬月額は改定されます(随時改定)。なお、標準報酬月額には上限があります。
社会保険料の自己負担はいくら?実際に計算してみましょう
実際にどのくらいの金額が給与から引かれるのか、以下の条件に基づいて試算してみましょう。
- 40歳
- 東京都在住
- サービス業
- 給与・標準報酬月額 30万円
- 協会けんぽ
- 令和5年1月時点の計算
健康保険料
健康保険料の自己負担額は、標準報酬月額×保険料率(9.81%)×自己負担割合によって求められます。計算結果は次のとおりです。
30万円×9.81%×50%=14,715円
厚生年金保険料
厚生年金保険料の自己負担額は、標準報酬月額×保険料率(18.3%)×自己負担割合です。
30万円×18.3%×50%=27,450円
介護保険料
介護保険料の自己負担額は、標準報酬月額×保険料率(1.64%)×自己負担割合です。
30万円×1.64%×50%=2,460円
雇用保険料
雇用保険料の自己負担額は、給与に対して業種別の労働者負担率をかけて計算します。サービス業は一般の事業に分類されるため、労働者負担率は0.5%です。
30万円×0.5%=1,500円
社会保険料の自己負担に関する注意点
ボーナス(賞与)にも社会保険料の自己負担が発生する
「標準賞与額」に基づいて、賞与からも健康保険料・厚生年金保険料・介護保険料が引かれます。標準賞与額とは、賞与額から1,000円未満の端数を切り捨てた金額です。料率や自己負担割合は給与の場合と同じです。なお、標準賞与額にも上限があります。
また、雇用保険料も給与と同様に、賞与額に対して労働者負担率をかけた金額が引かれます。
前述の例において、60万円の賞与を受け取った場合の社会保険料は以下のとおりです。
- 健康保険料:60万円×9.81%×50%=29,430円
- 厚生年金保険料:60万円×18.3%×50%=54,900円
- 介護保険料:60万円×1.64%×50%=4,920円
- 雇用保険料:60万円×0.5%=3,000円
産休・育休以外の休職中にも社会保険料の自己負担は発生する
休職していても社会保険料の自己負担分は支払わなければなりません。
ただし、産前産後休業・育児休業の場合は、申請することで一定期間免除されます。
社会保険料の大部分は事業主と折半であることを理解しましょう
「労災保険料」は、全額を事業主が支払うため労働者の自己負担はありません。
毎回の給与・賞与の金額に応じて算出される「雇用保険料」の労働者負担率は、業種により0.5~0.6%、事業主負担率は0.85~0.105%です(令和4年10月1日~令和5年3月31日現在)。給与や賞与の金額が高い人でも、雇用保険料に上限はありません。
標準報酬月額および標準賞与額に応じて算出される「健康保険料・厚生年金保険料・介護保険料」の3種類については、保険料を事業主と折半します。
料率を合計すると、会社員の多くは社会保険料として給与・賞与の15%程度を自己負担している計算になります(雇用保険料を含む)。なお、標準報酬月額と標準賞与額には上限があるため、実際の給与・賞与の金額が上限を上回る間は、実質的な自己負担率は低くなります。
社会保険の種類によって違いはあるものの、社会保険料の大部分は事業主と折半であること、さらに正確に言えば事業主が半分より少し多めに負担していることを理解しておきましょう。
ソナミラ株式会社 金融商品仲介業者 関東財務局長(金仲)第 1010号