「給与のデジタル払い」解禁で暮らしはどう変わる?○○ペイで受け取るメリットとは
2023年4月から「給与のデジタル払い」が解禁され、PayPayやd払い、au PAY、楽天ペイなどの「デジタルマネー」での給与の支払いができるようになります。 なぜ「給与のデジタル払い」が導入されることになったのでしょうか?そして、この新しい制度が私たちの暮らしにどのような影響を与えるのでしょうか? 今回は、いま話題の「給与のデジタル払い」について、現時点でわかっている仕組み(※ 2022年12月時点での情報)、解禁される背景、メリットやデメリットを解説していきます。さらに、導入が予想される企業の社員にもお話を伺いました。
給与のデジタル払いの仕組みとは?
労働基準法で定められている給与の支払い手段は、本来は「現金」であり、時代の動向に合わせて「銀行口座振込」が追加されたという経緯があります。
厚生労働省は昨今のスマートフォンを使ったキャッシュレス決済、いわゆる「○○ペイ」の利用増加を受け、労働基準法の省令を改正しました。この改正により、「○○ペイ」などのサービスを提供する「資金移動業者の口座」が、「銀行口座」に次ぐ給与の振込先として2023年4月から新たに加わります。それが「給与のデジタル払い」の解禁です。
つまり、企業側は“労働者側の合意がある場合”に限り、従業員の「○○ペイ」などに直接給与を振り込むことが可能になります。
ここで注意すべきなのは、支払先の「資金移動業者」は厚生労働省が指定する約80社に限られること。交通系電子マネーはチャージされた残高を現金化できない「プリペイド(前払い)型」の支払い手段であり、資金移動業ではないため、「給与のデジタル払い」の対象にはならないことです。
なぜデジタル払いが解禁される?導入の背景とは
厚生労働省が「給与のデジタル払い」を推進しているのはなぜなのでしょうか。
その理由として最初に挙げられるのは、近年増えている「外国人労働者」への対応です。日本で働く外国人には、銀行口座を持っていない方も多く、このような外国人労働者への給与支払いの利便性を上げるために「給与のデジタル払い」の議論がスタートしたという背景があります。給与支払いの選択肢を増やし、外国人の働きやすさを改善・向上する狙いがあります。
また、キャッシュレス決済のさらなる推進も理由の一つです。日本でもキャッシュレス決済が浸透してきたとはいえ、その決済比率は約30%程度です。主要各国では40~60%台と、日本は大きく後れをとっており、経済産業省は2025年までにキャッシュレス決済比率を40%程度、将来的には世界最高水準の80%に上げていくことを目標に掲げています。(※2)「給与のデジタル払い」の解禁によって、キャッシュレス決済の利用がさらに広がっていくことが予想されます。
※2 経済産業省「第1回 キャッシュレスの将来像に関する検討会」資料より
企業側・労働者側のメリット・デメリット
「給与のデジタル払い」導入によって、企業側・労働者側の双方に考えられるメリットとデメリットがあります。
企業側にとっての主なメリットは2つあります。
- 「○○ペイ」などは銀行と比べて手数料が安価という傾向があり、振込手数料が削減できる
- 働きやすさの改善・向上は、労働者の確保にもつながりやすい
しかし、デメリットとして給与の「銀行口座振込」と「デジタル払い」という2重運用が必要になり、運用の手間やコストが増えてしまうことも考えられます。
労働者側の大きなメリットは2つあります。
- 銀行口座がなくても給与を受け取れる
- 普段からキャッシュレス決済を利用している人は、チャージの手間が省ける
ただし、注意しなければいけないデメリットもあります。
「資金移動業者」の口座残高には制限があり、100万円までしかためることができません。会社員などの給与を「○○ペイ」で受けとる場合には、こまめな現金化や、銀行口座と紐づけして100万円を超えた分を移すなどの対応が必要になります。
また企業側・労働者側の双方にとってのデメリットとして、事業者が破たんした場合の保証の問題も考えられます。
「給与とデジタル払い」今後の見通しとまとめ
「給与のデジタル払い」について、解禁の背景やメリット・デメリットを解説してきましたが、実際に導入が予想される企業の社員はどのように受け止めているのでしょうか。
キャッシュレス決済大手のグループ子会社に勤める30代女性は、「まだ会社からの案内はありませんが」とした上で、「普段からキャッシュレス決済は利用していますが、『給与のデジタル払い』の制度が導入されても、今のところ利用したいとは思っていません」と話します。その理由について「自社の銀行口座を持っていて、キャッシュレス決済とも紐づけているので、わざわざデジタルマネーで給与を受け取るメリットを感じません」と話し、100万円までしかためられないという制限も、「いざ100万円を超えるような大きな買い物をしようとしたときに、使い勝手が悪いのではないでしょうか」と語ってくれました。
「給与のデジタル払い」は、これから始まっていく制度であり、解決すべき課題がまだ残されています。当面の間は外国人労働者や短期アルバイトなどを中心に運用されていくのではないでしょうか。
しかし、日本のキャッシュレス化・デジタル化をさらに推進していくための第一歩でもあります。今後の動きにも注目していきましょう。
文・庄子洋行
ソナミラ株式会社 金融商品仲介業者 関東財務局長(金仲)第 1010号