【専門家インタビュー】今年も始まった確定申告シーズン。会社員には関係ない?実は申告したほうがいいケースも!
2023年2月16日(木)から3月15日(水)は、2022年(令和4年)申告分の確定申告期間になります。「今年もこの時期がやってきた」と感じる自営業者もいれば、「毎年『年末調整』をしているから、自分には関係ない」と考える会社員の方もいるかもしれません。 しかし、会社員のなかにも確定申告が必要な人や、確定申告をすることで税金が還付されるケースが存在するのはご存じでしょうか? 今回の専門家インタビューでは、税理士の本山惠一さんに「会社員の確定申告」について、基礎から解説いただきました。 ※2022年12月時点での情報を基に解説していただいています。
<専門家プロフィール>
税理士・行政書士 本山惠一さん
1967年愛媛県生まれ。2008年に税理士事務所を開業。リブロス総合会計事務所/リブロス株式会社の代表を務め、企業の経理業務におけるコンサルティングや決算・財務戦略、会社設立のサポートなど、さまざまな業務を手掛けている。
そもそも確定申告とは、何をするためのもの?
――毎年この時期になると「確定申告」という言葉をよく聞きます。まず「確定申告」とはどういった手続きなのでしょうか?
本山:「確定申告」とは、1月1日から12月31日まで1年間の所得をもとに、「私の1年間の収入・所得はこれだけありました」と計算して、そのうえで翌年の2月16日から3月15日の間に「よって納付する所得税はこれだけになります」と申告する手続きのことをいいます。日本では「申告納税制度」を採用しており、税を納める国民側が納税の手続きをしなければなりません。
――「確定申告」の手続きは、具体的に何を行うのでしょうか?
本山:前述のように、2月16日から3月15日までに「確定申告書」に1年間の収入や控除額などの必要事項を記入して、税務署に提出する必要があります。必要な書類は、税務署に提出する場合はマイナンバーカード、または通知カードと本人確認書類など。会社員の方が確定申告する場合は、対象期間の源泉徴収票、控除を受けるための証明となる各種領収書などの書類、還付金がある場合は本人名義の口座番号などになります。
e-Taxを利用する際には、「生命保険料控除の証明書」などを省略することもできますので、国税庁のHPを確認してみてください。
また、これまでは会社員や年金生活者などに必要な所得のみを申告できる「確定申告書A」とすべての人が使用できる「確定申告書B」がありましたが、2022年(令和4年)分、つまり今年2月16日から3月15日に申告する分からは一本化され1つの様式のみになります。
――「確定申告」は、会社員でも必要な手続きなのでしょうか?
本山:会社員の場合は「確定申告をしなくていい方」が多いです。
会社側や報酬を支払う側は「源泉徴収」として、予定される税金分を給与から差し引き、あらかじめ税務署に税金の「前払い」をしてくれています。納税額が確定し、前払いした税額と比べて、不足分があれば追加の納税を、納税額が多ければ還付を受けることができます。会社員の場合は、会社側がその精算の手続きを「年末調整」という形で行ってくれるので、「確定申告」する必要がないケースが多いのです。
しかし、そんな会社員の方でも、確定申告をしなければならない、もしくはしたほうがよいケースが存在します。
確定申告をすべき会社員と、したほうがいい会社員は?
――では、会社員が確定申告を「しなければならない」のはどういった場合なのでしょうか?
本山さん:一般の会社員で「確定申告」が必要になるのは、主に3つのケースが考えられます。
まずは「年収が2,000万円を超える場合」。
次に「2か所以上の給与収入がある場合」。これは、複数の会社から合わせて20万円を超える所得がある場合が対象になります。
さらに、「副業などの雑所得による収入がある場合」。これも、経費を差し引いた所得が20万円以上ある場合に、確定申告をしなければならないと決められています。
以上のケースでは、理由の如何を問わず会社員でも必ず確定申告しなければなりません。
――会社員が確定申告を「したほうがいい」ケースはどんな場合ですか?
本山さん:会社員の場合、年末調整に反映されない「医療費控除」や初年度の「住宅ローン控除」などを受ける際は、自身で確定申告をしたほうがいいケースだと言えるでしょう。
「医療費控除」は自分、そして自分と同一生計の扶養家族が支払った医療費、その医療を受けるためにかかった経費が10万円を超えると、控除が受けられます。昨年、何度も病院に通ったという方は、確定申告の期限がくるまでに総額を計算してみるとよいでしょう。
「住宅ローン控除」に関しては、最初の年は確定申告の必要がありますが、その申告後に税務署から送られてくる書類と金融機関から発行される住宅ローンの残高証明書を会社に提出することで、2年目以降は年末調整での対応が可能です。
また、株式の売買や住宅の売買によって損失が出てしまった方は、条件によっては損失分を所得から控除できるケースもあります。その際も確定申告をしたほうがよいですね。
――確定申告の経験が少ない場合では、申告によって副業していることが会社にばれてしまうと心配する方もいると思います。実際、会社にはわかるものなのでしょうか?
本山さん:先程も言った通り、副業による雑所得が20万円を超える場合には確定申告が必要になります。確定申告をすると、副業の収入が会社から支払われる給与と合算され、翌年の住民税に反映されます。この後に各自治体から会社に送られる住民税の額によって副業が知られてしまうということは、たしかにあります。
もし副業による収入を会社に知られたくないのであれば、確定申告書第二表の「住民税に関する事項」にある、「給与、公的年金等以外の所得に係る住民税の徴収方法」の欄に「自分で納付」というチェック欄があるので、そこに○を記入しましょう。そうすることで、副業による収入に関する住民税の通知が自宅に届き、会社側に副業を知られずに済みます。ただし、この方法を採る場合には、給与からの住民税の源泉徴収とは別に、自分で金融機関やコンビニエンスストアといった窓口支払い、口座引き落とし、クレジットカードや電子決済などで副業分の住民税を支払うことを忘れないようにしましょう。
税金が軽減される「控除」とは?
――ところで、先程から度々、「控除」という言葉をお聞きします。これはどういったものでしょうか?
本山さん:控除とは、一定の要件にあてはまる場合に、税金の対象となる金額から取り除かれる金額です。収入から経費を差し引き、さらに「控除」を差し引いた額が、課税対象の「所得」となり、そこに税率をかけたものが税額になります。簡単にいえば、控除額が多いほうが税金は安くなると考えていいでしょう。
――控除にはどのようなものがあるのですか?
本山さん:納税者本人の合計所得金額によって決まる「基礎控除」、16歳以上の子どもや両親を扶養している場合には「扶養控除」、配偶者がいる場合は「配偶者控除」、生命保険や介護医療保険に支払った額に応じて適用される「生命保険控除」、ふるさと納税などで寄附した場合は「寄附金控除」、さらに「医療費控除」などの控除があります。以上は、所得税の場合の控除です。
これらは税率をかける前の「所得」から引かれる「所得控除」です。所得税は累進税率であり、課税対象の所得額によって税率が変わります。一般的には所得控除が大きければ大きいほど税率が低くなるので、所得控除を漏れなく計算するということは、確定申告をするうえで大きなポイントとなるでしょう。
もう1つ、税額をかけた後の所得税額から一定の金額が引かれる「税額控除」というものもあります。主なものに「住宅ローン控除」があります。所得控除は税率をかける前の金額に効いてくるものですが、一方、税額控除は税率をかけたあとの金額からダイレクトに税金が安くなる効果があります。たとえば、住宅ローン控除は住宅ローン残高の0.7%、具体的な金額で言うと3000万円の住宅ローンの場合、所得税が21万円も安くなります。これは所得の高低に関わらず税金が安くなるのです。税制改正により2022年以降に取得・居住を開始した場合は減税率が1%から0.7%に下がりましたが、新築住宅の場合、控除期間が13年あるのでインパクトは大きいです。
――先程も少し話が出ましたが、ふるさと納税をしているという方は少なくないと思います。ふるさと納税をして寄附金控除を受ける際の、「ワンストップ特例制度」について教えてください。
本山さん:ワンストップ特例制度は、ふるさと納税の寄附の対称が5つの自治体までであれば、確定申告をしなくても「寄附金控除」が受けられる制度です。5つの自治体以内であれば、ふるさと納税のためだけに確定申告をする必要がなくなり、簡単に手続きできます。ただし、ワンストップ特例制度の申請書が期日までに提出できないと、確定申告を行わなければなりません。
――医療費控除で言うと、セルフメディケーション税制と医療費控除はどちらかを選ぶ必要があります。一方しか適用できない控除ですが、どちらにすべきか悩む方もいるかもしれません。アドバイスをお願いします。
本山さん:セルフメディケーション税制は対象の医薬品をドラッグストアなどで購入しているとき、1月1日から12月31日までの購入額の合計が12,000円をオーバーした場合に購入費用の所得控除が受けられるという医療費控除の特例です。通常の医療費控除は年間10万円以上が対象となり、適用には大幅な差があるのですが、これはケースバイケースでどちらがよいか実際に試算してみる必要があります。
入院や手術などで多額の医療費がかかる場合は、医療費控除を利用する場合が多いと思います。ただ、年間10万円の医療費がかかっていなくても、セルフメディケーション税制であれば適用できる可能性があるため、確定申告の前に昨年かかった医療費を確認してみてはいかがでしょうか。
会社員の確定申告、税理士に相談したほうがいい?
――会社員が確定申告するとき、心配だから税理士にお願いしたいと考える人もいるかもしれません。税理士に依頼したほうがよい場合、そうでない場合を教えてください。
本山:「医療費控除」やふるさと納税による「寄附金控除」はそれほど計算が複雑ではないので、税理士に依頼する必要はないと思います。e-Taxの画面上や税務計算ソフトでも試算できますので、ぜひ試してみてください。
不動産譲渡での所得があった場合などは、控除の適用漏れがないか、計算が合っているかどうかを税理士に依頼して確認したほうがよいケースがあるかもしれません。
アパート・マンション経営などで不動産所得がある場合も、経費として算入できるものや減価償却など、作業や計算が複雑になってきます。正しいやり方がわからない場合には税理士に依頼するのがベターでしょう。
――会社員の場合、税理士に依頼するとだいたいどのくらいの費用がかかりますか?
本山:これは本当にケースバイケースですね。給与とふるさと納税、医療費、住宅ローン控除であれば数万円くらいでしょうか。不動産売買などの所得が入ってくると、不動産収入の数%などになるのですが、それも複雑さの内容によると思います。
事前にお話を聞いて見積もりを提示することはできますので、税理士にご相談いただければと思います。
――いざ、会社員が「確定申告をしよう」と決意したときに、まず何から始めるとよいのでしょうか?
本山:まずは国税庁のホームページに解説が載っていますので、確認することから始めましょう。
またマイナンバーカードがあると、e-Taxなどでも手続きがスムーズに行えるので、持っていない方は作成手続きを進めておくのもよいかもしれません。
申告書に記入する前の計算やどう申告書に書けばよいのか不安になるかもしれませんが、e-Taxでは自動計算で税額や還付される金額を試算することもでき、申告書を提出する際も指示通りに入力していけば簡単に作成できます。怖がらずぜひ入力してみてください!
まとめ
会社員にとって、あまり馴染みのない「確定申告」。しかし、ローンで家を買ったり副業を始めたりすると、いつのまにか「確定申告しなければならない人」になることも考えられます。
今回、税理士の本山さんにお話を聞き、10万円以上の医療費がかかった場合など、確定申告をすることで税金が還付されるケースがあるとわかりました。
確定申告は過去5年までさかのぼって申告することもできます。「確定申告をしておいたほうがよかったかも!?」と、心当たりがある方は、この機会にぜひ確認してみてはいかがでしょうか。
- 取材・文:庄子洋行
- 撮影:深堀雄介
ソナミラ株式会社 金融商品仲介業者 関東財務局長(金仲)第 1010号