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「小1の壁」はなぜ生じる 子どもの小学校入学で直面することと対策

目次

子どもが小学校に入学する際にママやパパが直面する「小1の壁」をご存じでしょうか。主に共働き世帯で、小学校に入学した子どもの放課後の預け先を確保できず、親がこれまで勤めてきた仕事を辞めざるを得ない状況に追い込まれるという問題です。岸田文雄首相は2023年3月、「小1の壁を打破することは喫緊の課題だ」と国会で述べて、問題の解消を図る考えを示しました。小1の壁はなぜ生じるのか、親ができる対策はどんなものがあるのかを解説します。

小学校入学で早まる帰宅時刻 子育てと仕事の両立難しく

小学校入学で早まる帰宅時刻 子育てと仕事の両立難しく


働くママやパパの多くは、子どもが保育園に通っている間、早朝保育や延長保育を活用して子育てと仕事を両立しています。ところが子どもが小学校に入学した後、この両立が難しくなってしまうのが、小1の壁です。

なぜ小1の壁が発生してしまうのでしょうか。多くの保育園では、子どもは午前7時~9時頃に登園します。1日の預かり時間は原則8時間ですが、親の事情により、11時間まで延長できます。一方、小学校では午前8時~8時30分頃に登校し、一般的な下校時刻は午後2時~3時頃です。学校で子どもを預かってくれる時間は6~7時間と、保育園の頃より大幅に短くなってしまいます。

学童保育の4割、午後6時30分までに閉所

「放課後児童クラブについて/終了時刻の状況(平日)」のグラフ


出典:厚生労働省・第11回放課後児童対策に関する専門委員会資料「放課後児童クラブについて/終了時刻の状況(平日)」

自治体が運営している放課後児童クラブ(学童保育)は、放課後に学校内や児童館などで小学生を預かってくれますが、保育園より閉所が早い施設が少なくありません。厚生労働省の調査によると、学童保育のおよそ4割が午後6時30分までに閉所しています(2021年5月現在)。フルタイムで働くママやパパが迎えに行くのが難しくなってしまうケースが多いとみられています。

また小学校では、入学後しばらく給食が始まらず、お昼前後に子どもが下校してしまう期間があります。夏休みには給食のない学童保育も多く、その場合はお弁当を持たせる必要があります。さらに、定員の関係で「長期休みの間だけ」という利用ができない学童保育も多いのが現状です。

さらに、勤め先の事情が加わるケースもあるでしょう。時短勤務を選べる勤め先でも、「小学校入学前まで」などと制限がついていることがあります。保育園と比べて、こうした親の負担が加わることで、仕事との両立が難しくなってしまうのが小1の壁の要因です。

小1の壁を乗り越える3つのポイント

小1の壁を乗り越える3つのポイント


小1の壁を乗り越えるには、どんな対策が有効なのでしょうか。ここでは、3つのポイントをご紹介します。

働き方を見直す

コロナ禍を経て、多くの企業で在宅勤務ができるようになりました。また近年では、SDGs(持続可能な開発目標)が注目されるなか、目標8「働きがいも経済成長も」を意識して働き方改革に取り組む企業もふえています。

在宅勤務に加え、時短勤務やフレックス勤務も活用できるか、勤め先の制度を調べたり、勤め先の上司に相談したりしてみてはいかがでしょうか。また、自分の仕事の進め方を見直し、より効率的に仕事に取り組んでもいいかもしれません。この機会に、「雇用形態を変えてパートや契約社員になる」「転職する」という選択肢も考えられるでしょう。

ほかの学童保育や地域のサポート制度を知る

先ほどの厚生労働省の調査では、全国に小学校が18,889校あるのに対して、学童保育は26,925か所あります。地域によっては複数の選択肢がある計算です。自治体が直接運営するのではなく、NPOや児童館に運営委託している学童保育もあります。同じ厚生労働省の調査では、午後7時まで開所している学童保育が半数以上に上っており、地域で自分に合ったところが見つかるかもしれません。

また、民間の学童保育サービスでは、公的な学童保育と比べると遅くまで子どもを預かってくれるところもあります。英会話やスポーツなどと組み合わせたサービスもあります。ただ、運営元によってサービスの質には差があるため、入会前に施設見学や事前体験をしておくとよいでしょう。利用日数やサービス内容によっては高額になることもあります。

地域の互助事業である「ファミリーサポート」を活用するのも一つの手です。ファミリーサポートは、国の「子ども・子育て支援新制度」の一つに位置づけられており、子どもの預かりや送迎を安価に頼むことができます。一方で、引き受け手がなかなか見つからなかったり、予約が取りにくかったりすることもあるので、お住まいの地域の制度を調べて、周りに利用者がいれば使い勝手を聞いてみるとよいでしょう。

夫婦や親同士で相談する

働き方や育児のあり方の見直しには、夫婦の間の相互理解が重要です。一方だけが負担を引き受けるのではなく、互いにどう分担するのが家族にとってベストか、話し合ってみてはいかがでしょうか。「産後パパ育休」などが注目される中、男性の育児参加に理解を示す企業もふえてきています。

また、ママ友、パパ友同士で協力し合うことも有効です。子どもが朝、同じ学校に通う友だちの家に早めにお邪魔し、一緒に登校するという解決策がとれるかもしれません。その場合、負担にならない範囲でお願いする配慮が必要です。また信頼できる親しいママ友、パパ友がいれば、持ち物や宿題などの情報共有や、子どもの心配ごとを相談することもできます。

待機児童は15,506人 親のキャリアも子どもの成長も大事

待機児童は15,506人 親のキャリアも子どもの成長も大事


岸田首相は2023年3月、国会で小1の壁への対応について問われ、学童保育の受け皿拡大に取り組んでいると説明しつつ、「夜間働く方、労働時間が不規則な方は利用が難しい現実がある。きめ細かい配慮も重要だ」と述べました。

学童保育の保護者や指導員で作る「全国学童保育連絡協議会」によると、少子化の状況下でも学童保育に入所している子どもは年々ふえています。2022年5月現在の入所者は全国に約135万人おり、前年より約4万人ふえました。また、学童保育に申し込みをしても入所できない「待機児童」は15,506人で、前年より1,600人余りふえました。小学校区に学童保育がないところは2,310校区あり、小学校区全体の12.3%に上ります。学童保育をめぐる環境は、まだ十分とは言えません。

子どもが小学校に入学する頃には、ママやパパも職場で重要なポジションを任されているかもしれません。親がキャリアを諦めることなく、一方で多感な時期の子どもの成長をしっかり支えられるようにすることが大切です。国の支援はまだ拡充の途上ですが、いまある制度を活用しつつ、夫婦や親子でよく話し合い、各家庭でよりよい道を探ってみてはいかがでしょうか。

▼参考資料

  • 厚生労働省・第11回放課後児童対策に関する専門委員会資料「放課後児童クラブについて」
  • 内閣府「よくわかる『子ども・子育て支援新制度』」
  • 全国学童保育連絡協議会「学童保育(放課後児童クラブ)の実施状況調査結果について」
  • ソナミラ編集部さん

    「健康で豊かなミライにソナえる」をコンセプトに、マネー・ライフデザインをテーマとしたコンテンツを発信しています。 あなたの可能性を広げるため、読んでためになったと思える記事の制作を心掛けています。