子どもの名づけに新ルール キラキラネームには一定の制約
誕生したわが子に、親が最初に贈るものの一つが「名前」です。名前は一生のものであり、さまざまな期待や希望が込められていることでしょう。そんな名前のつけ方について、国が新たなルールを近く制定します。名前の読み方は「一般に認められているものでなければならない」とする規定が法律に設けられ、いわゆる「キラキラネーム」には一定の制約がかかる見通しです。新たなルールの概要や論点を解説します。
読み仮名は「一般に認められているもの」に
出生届には現在、氏名の読み方を記入する欄がありますが、法的な裏づけはありません。このため、出生届に基づいて作られる戸籍には、読み仮名が記載されてきませんでした。ただ、マイナンバーカードにローマ字表記を導入するのに合わせて読み仮名が必要になったため、法務大臣の諮問機関である法制審議会が名前の読み方のルールを検討してきました。
2023年2月にまとまった戸籍法改正の要綱案では、戸籍の氏名に読み仮名を記載することと、読み方は「一般に認められているものでなければならない」とすることが示されました。
「一般に認められているもの」とは、どのような内容でしょうか。法務省は「社会を混乱させるような読み方は認められない」との見解を示しました。具体的には、受理できない読み仮名の例として、以下のようなケースをあげています。
- 「高」と書いて漢字の意味とは逆の「ヒクシ」と読ませるケース
- 「太郎」と書いて「サブロウ」と読ませるような、読み違いか書き違いか分からないケース
- 「太郎」と書いて「マイケル」と読ませ、漢字の意味や読みからは連想できないケース
さらに、反社会的なものや差別的なもの、人名として違和感のあるキャラクターの名前なども受理しない例に含める方向です。
一方で、「騎士」を「ナイト」、「海」を「マリン」と読ませるなど、外国語との関連づけや、連想による読み仮名は認められる可能性があります。実際に法制審の調査では、パスポートの登録者に「海(マリン)」さんが200人ほどいることが明らかになりました。法務省は、法律が施行されるまでに、原則認められないケースを通達で示すことにしています。
「光宙」=「ピカチュウ」、「七音」=「ドレミ」はどう判断?
最近では、漢字本来の意味から外れた読み方をする「キラキラネーム」もふえています。前述した「社会を混乱させるような読み方」には制約がかかる見通しですが、どこまでが「一般に認められているもの」と言えるのか、線引きは必ずしも明確ではありません。
具体的にどこまで認めるかは、社会で「慣用」されているかという観点で個別に判断されることになりそうです。例えば、「光宙」を「ピカチュウ」、「七音」を「ドレミ」と読ませるようなケースです。
グレーゾーンが残る背景には、日本独自の「命名文化」があります。最初に誰かが名の読み方として考えた漢字の読みが広まって、名に用いられる読み方として社会で慣用される読み方(名乗り訓)となるという慣習です。
例えば、「和」は音読みで「ワ」、訓読みで「ナゴむ」などと読みますが、誰かが「和子(カズコ)」と読ませて、いつの間にか「カズ」が広がって定着したと言われています。鎌倉幕府を開いた源頼朝の「朝」を「トモ」と読むのも名乗り訓の一つです。「彩」が「アヤ」と読まれるようになったのは1980年代からという説もあります。「陽葵」を「ヒマリ」、モミジを意味する「椛」を「イロハ」と読むのも、新たな読み方の一つとされています。
法制審の議論でもこうした点は考慮されており、要綱案では「命名文化や名乗り訓が創造される慣習を否定したり、その創造を制約したりするものではない」と補足説明しています。法制審が今回の要綱案を法務大臣に答申したのを受けて、法務省は国会での法改正を進めます。
将来へ思いをめぐらせた命名に
子どもの命名には、将来への想像力が求められます。その子がどんな人生を送るのか、またその名前が社会でどう受け止められるのか、名づけるときにはさまざまな思いをめぐらせることになります。そして判断基準は時代によっても変わります。
これから子どもが生まれる方、将来子どもがほしいと考えている方もいらっしゃるでしょう。今回示された新ルールを踏まえて、子どものための名前をじっくり考えてはいかがでしょうか。
▼参考資料
- 法務省ホームページ「法制審議会戸籍法部会第14回会議」(2023年2月2日開催)
ソナミラ株式会社 金融商品仲介業者 関東財務局長(金仲)第 1010号