メガバンク出身のお金のプロ・はっとりさんに聞いた「好きに生きる」ためのお金の話
新卒で三井住友銀行に入行し、国内外で11年間勤務したあとに独立、現在では金融のプロとしてX(旧Twitter)や書籍で情報発信をしているはっとりさん。大好きなスキューバダイビングのために沖縄県の石垣島に移住したはっとりさんは、自身のモットーである「好きに生きる」を体現した生き方をされています。
はっとりさんがどんな考え方で人生を歩み、お金に対してどんな価値観を持っているのか。「好きに生きる」ための秘訣について、オンラインで聞きました。
「好きに生きる」ために資産形成をしよう
ーー現在はSNSや書籍などでお金に関する情報を発信されているはっとりさんですが、独立前はメガバンクで11年勤務されていたそうですね。当時はどんなお仕事をされていたのでしょうか。
はっとり:メガバンクでは投資銀行業務や法人営業、海外支店におけるグローバル営業などを行っていました。法人営業では会社オーナー個人の資産運用の相談なども受けていました。入社したタイミングが2009年でリーマンショックの直後だったので、銀行でも金融商品の見直しが進んでいた時期でした。そうした背景もあって、かなり個人の資産形成については勉強しましたね。
ーーその際のご経験が現在に生きているということですね。ご自身のライフプランについては、どのようにお考えだったのでしょうか。
はっとり:正直、昔はライフプランについては何も考えていなかったです。漠然と、これくらいの年齢で結婚して子どもが生まれて、子育てをして……くらいのイメージでした。ただ、今はそういった「◯歳までに◯◯をする」みたいなライフプランは立てていません。
私が常に意識しているのは、「好きに生きる」こと。たとえば、今私は沖縄県の石垣島に住んでいるのですが、その理由はスキューバダイビングが大好きだから。今年の5月にはスキューバダイビングのショップもオープンしました。スキューバダイビングをしながら過ごすことが、今の私にとっての「好きに生きる」なんです。
ーーそんなふうに好きに生きるって、なかなかできないことだと思います。
はっとり:そうですよね。「好きに生きる」ためには、何かをやりたいと思ったときに、すぐ行動できる状態に自分を置いておくことが重要です。そして、それにはやはりお金が必要になることが多い。
こう言うと、「人生はお金じゃない」と思われがちなのですが、実際のところ何かを始めるのにお金が必要になるケースは多いです。たとえば資格を取って人生を変えようとしても、その資格を取るためのお金や勉強するためのお金がなければ、スタートラインにも立てません。世の中にはチャレンジできない人がけっこういますが、実はお金さえあれば行動できたことも多いと思いますよ。
ーー確かに。いざやりたいことができても、お金がなくてできないなんて、もったいないですよね。
はっとり:だからこそ、私は資産形成をおすすめしているんです。といっても、大抵の場合はやりたいことをやるのに1億円や2億円も必要ありません。数十万円からせいぜい100万円くらいあれば、だいたいのことは始められるはずです。これは法人だって同じです。銀行員時代に見てきたのですが、ビジネスで成功する社長は簡単に資金調達して新しいビジネスにどんどん挑戦します。それは、お金を借りても返せる自信があるから。つまり、お金の心配をしていないんです。
一方、お金に対して不安を持っている社長はお金を借りられないし、新しいビジネスに挑戦しようとしません。結局、うまくいっている会社がなぜうまくいくのかというと、それは資金力があるからなんです。
ーーなるほど。そう聞くと、会社も個人もお金はものごとの土台ですね。ただ、仮にお金を持っていても、将来を考えて使わずに残しておこうと思う人もいそうです。
はっとり:私たちはいつかは死ぬわけで、たとえば私自身は70歳まで生きられるだけのお金があればいいと思っています。あくまで資産形成は、自分がやりたいことをやって生きていくのに必要なお金を作るための手段だと考えればいいのではないでしょうか。
家計管理の第一歩は「お金の見える化」
ーーそもそも、資産形成以前に貯金がなかったり、家計が赤字になってしまったりしている人もいると思います。そういう人は、どうしたらいいのでしょうか。
はっとり:そういう方にまず必要なのは、「お金の見える化」ですね。節約や貯金の前に、まずはいくら使っているのか出費を把握しなければ始まりません。見える化する手段はなんでも良くて、家計簿は紙でもアプリでも、好きな方法で大丈夫です。
私の実家でも、母はずっと紙の家計簿をつけていましたね。私も法人を設立するまでは、アプリを使って個人の家計簿をつけていました。今は家計簿がなくてもお金の流れが把握できるようになったので、つけていません。
ーー見える化ができない人は、記録に残したり、あとから調べたりするのが面倒なのかもしれません。
はっとり:その場合はキャッシュレス決済をメインにして、家計簿アプリと連携させれば自動で記録できるのでいいですよ。私も基本的にクレジットカードで支払える場面ではカードを使います。ただ、私は石垣島に住んでいるので、キャッシュレス決済が使えないお店もまだまだ多いんですよね。そこはケースバイケースです。
ーーキャッシュレスだと、お金を使い過ぎてしまうという声もよく聞きます。
はっとり:そういう方は「ポチ袋」方式を導入してはいかがでしょうか。給料が入ったら、使っていい金額をあらかじめ決めて、現金で用途ごとにポチ袋に割り振るんです。そうすれば、自分が使っていい金額を把握しやすいですよ。ただ、キャッシュレスだとポイントがたまるメリットもありますし、家計管理に慣れたらキャッシュレスがおすすめです。私もクレジットカードでマイルをためています。
いずれにしても、出費を把握することがファーストステップです。もちろん、出費を見える化したからといって、使うお金が自動的に減るわけではありません。ただ、見える化することでお金に意識が向くようになります。そうしてだんだん、家計簿を細かくつけたくないから無駄遣いを減らそうというマインドになり、お金がたまっていくわけです。
お金を使うのは「幸福度が上がること」だけ
ーーでは、必要な支出についてはいかがでしょうか。何かお金を使う際のマイルールなどはありますか?
はっとり:私は必ず「幸福度が上がること」にしかお金を使わないと決めています。たとえば、私は普段お酒を飲みません。家でも飲まないし、居酒屋にも行きません。ですが、東京に行って人と会うときは、おいしいお店に行ってお酒を飲むこともあります。これは、同じお酒を飲むというお金の使い方でも、後者のほうが私にとって幸福度が上がるからです。
あるいは、出張などで飛行機に乗る際、私は必ず席をアップグレードします。エコノミー席は狭くて仕事もやりにくいし、どんな人が周りに座るかわかりません。アップグレードすることで仕事がしやすくなるのであれば、そのほうが時間を有意義に使えるし、幸福度が上がると考えています。石垣島から東京までアップグレードしても、差額は1万5,000円程度ですから、普段お酒を飲まないことを考えたら安いものです。
ーー「安いほうを選ぼう」とか「高いからやめよう」ではなく、「幸福度が上がるかどうか」を基準にするのはシンプルで実のある行動指標ですね。
はっとり:そうですね。こうした考え方ができるのは、私が自分でお金を稼いでいるからかもしれません。東京出張で仮に10万円の費用がかかったとしても、それで300万円の契約を取って帰ってこられるなら、気にならないですからね。お金を使うときは、常にそれによってリターンがどれくらい得られるかを考えるべきだと思います。
そして、それこそが「投資の考え方」でもあるんです。一般的に投資というと資産運用を想像すると思いますが、自分自身の価値を高めるためのお金の使い方も立派な投資です。
賃貸住宅でも持ち家でも総費用は変わらない!?
ーーはっとりさんは、これまで多くの方の相談に乗ってこられたと思います。特に多い家計のお悩みは何でしょうか。
はっとり:よくあるのは、「家は賃貸か購入か」という相談ですね。
ーー確かに多そうなお悩みですね。調べてもいろいろな主張があって、はっきりとした答えは出てこないですし……。
はっとり:実際、最適解は人によって違いますからね。たとえば会社員で年収が600万円だとすると、購入する家はだいたい5,000万円くらいだと思います。実はこれくらいの価格と年収で考えると、賃貸でも購入でも長い目で見た総費用やキャッシュフローってほとんど変わらないんです。
購入しておけば、一応ローンを払い終えたあとに家という資産が残りますが、建物自体は減価償却で目減りしてほぼ無価値になり、土地も子どもに相続すると相続税がかかります。そして、相続しても税金の関係で土地を維持できない場合も多いです。でも、リセールバリューのあるマンションなどはいいと思いますよ。
賃貸の場合は、家族形態が変わったときに住み替えられるメリットがあります。仮に子どもが2人いる場合、親を含めて4人で住むときは広い家が必要かもしれませんが、子どもが独立したら、その分小さい家に引っ越せばキャッシュフローは改善します。その余裕から生まれたお金を残すこともできますよね。そうやって考えていくと、購入するほうがお得だとは一概には言えないんです。
だから私自身は正直どちらでもいいと思っていて、今の自宅も一度は購入を考えたのですが、結局賃貸のまま住んでいます。
取材・文:山田井ユウキ
ソナミラ株式会社 金融商品仲介業者 関東財務局長(金仲)第 1010号