iDeCoと退職金の受け取りを5年ずらすメリットは?時期による税金を比較
定年退職が近づき、退職金の使い道や老後の資金計画について考え始めた人もいるかもしれません。老後の生活を支える重要な資金である退職金には退職所得控除が適用されますが、iDeCo(個人型確定拠出年金)の一時金と同時に受け取ると、その控除のメリットが薄れてしまいます。そこで、それぞれの受取時期をずらすことで手取り額をふやしたいと考える方も多いでしょう。
「5年」を一つの目安として受取時期を調整した方がよいといわれますが、具体的にどのくらいメリットがあるのか、わからない方もいるかもしれません。そこで今回の記事では、iDeCoと退職金の受け取りを5年ずらすことで得られるメリットや具体的な税金シミュレーションを紹介します。
iDeCoと退職金の受け取りタイミングを5年ずらすメリット
iDeCoと退職金を受け取るタイミングを5年ずらすことで、老後資金として活用できる金額がふえ、経済的な安定を確保しやすくなることが期待できます。
税制上の優遇が受けられる
勤務先からの退職金を受け取る場合や、iDeCoの老齢給付金を一時金で受け取る場合は、基本的に「退職所得控除」が適用されます。退職所得控除は、以下の計算方法で求めることが可能です。
勤続年数 | 退職所得控除額 |
---|---|
20年以下 | 40万円×勤続年数 |
20年超 | 800万円+70万円×(勤続年数ー20年) |
【出典】
国税庁「No.1420 退職金を受け取ったとき(退職所得)」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1420.htm
実際に受け取った退職金などの収入から、退職所得控除を差し引いた金額に2分の1を掛けた金額が、退職所得として所得税や住民税の課税対象になります。つまり、退職金などの収入が退職所得控除額の範囲内であれば、課税されません。
退職金とiDeCoの老齢給付金の両方を同じタイミングで受け取ってしまうと、合計額が退職所得控除の枠を超えてしまうこともあります。しかし、一定期間を空けてから受け取ることで、退職所得控除を2回利用でき、大幅に課税額を減らせる可能性があるのです(詳しくは後述します)。
もし税金がかかったとしても、退職所得は「分離課税」です。他の所得と合算されて税金が高くなる心配はありません。
所得の分散ができる
iDeCoと退職金を一度にまとめて受け取ると、手元のお金に余裕が生まれ、散財してしまうこともあるでしょう。しかし、本来は老後資金の重要な原資として、計画的に使わなければいけないお金です。受け取るタイミングをずらせば、老後資金を使い込んでしまう可能性も低くなるでしょう。
資産運用の継続ができる
iDeCoの老齢給付金を受け取るタイミングをなるべく遅らせることで、退職後も資産運用を継続できます。将来的な受け取り額の増加を期待しながら、より安定した老後生活を送れるようになるでしょう。
退職所得控除の5年ルールとは?
退職所得控除の5年ルールとは、退職金等を受け取る前年以前4年以内に他に支払われた退職金等がある場合は、それらの勤続年数の重複期間を含めずに退職所得控除を計算するルールのことです。
たとえば、先にiDeCoの一時金を受け取り、その後5年以内に会社から退職金を受け取った場合は、勤続年数のうちiDeCoの加入期間と重複する部分については、退職所得控除の計算から外されるため、受けられる控除額が減ってしまいます。
しかし、退職金等を受け取ってから5年が経過して再び退職金等を受け取った場合は、また同じ条件で退職所得控除が適用されます。たとえば、2024年にiDeCoの一時金を受け取り、2029年以降に退職金を受け取れば、それぞれのタイミングで同じように退職所得控除が計算されるというわけです。
ただし、会社から退職金を受け取った後にiDeCoの一時金を受け取った場合は、再び同じ条件で退職所得控除の適用を受けるためには、20年以上間を空けなければなりません。
【出典】
国税庁「No.2732 退職手当等に対する源泉徴収」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/gensen/2732.htm
iDeCoと退職金の受け取りを5年ずらしたときの税金の比較
以下の前提条件に基づいて、iDeCoと退職金の受け取り時期を5年ずらしたときの税額をシミュレーションしてみましょう。
<前提条件>
● 入社年:2024年(22歳)
● 退職金:2,000万円(※源泉徴収前)
● iDeCoを始めた年齢:30歳
● iDeCoの一時金:1,000万円
<シミュレーション>
● 60歳(勤続38年)で退職金とiDeCoの一時金を同時に受け取る場合に支払う所得税額
● 60歳でiDeCoの一時金を、65歳(勤続43年)で退職金を受け取る場合に支払う所得税額
● 60歳で退職金を、65歳でiDeCoの一時金を受け取る場合に支払う所得税額
上記3つのケースをシミュレーションした結果が以下のとおりです。
受け取り時期 | 退職金の税額 | iDeCoの税額 | 所得税の合計 |
---|---|---|---|
同時に受け取る場合 | - | - | |
退職金を5年後に受け取る場合 | 0円 | 0円 | 0円 |
iDeCoを5年後に受け取る場合 | 0円 | 37万2,500円 | 37万2,500円 |
iDeCoの一時金と退職金を同じ年に受け取った場合は、勤続年数または加入期間が長いほうの退職所得控除額が適用されます。
iDeCoの一時金を受け取ってから5年後に退職金を受け取る場合は「5年ルール」が適用されず、それぞれに対して退職所得控除を適用することが可能であるため、所得税は非課税です。
一方、退職金を受け取ってから5年後にiDeCoの一時金を受け取る場合は、一時金の受け取り時に退職所得控除額から重複期間分(30歳から60歳まで)が減らされるため、課税が発生します。
トータルで受け取る金額が同じであっても、受け取るタイミングによって課税額が大きく変わる可能性があることを覚えておきましょう。
退職後のライフプランを考慮した退職金とiDeCoの受け取り方
iDeCoの一時金や退職金の手取り額を少しでもふやしたい場合は、受け取るタイミングに注意しましょう。
iDeCoを先に受け取る場合は5年空ける
iDeCoの一時金を先に受け取る場合は、税金面での負担を減らすために5年以上期間を空けてから退職金を受け取るのがおすすめです。iDeCoの一時金を受け取るときと退職金を受け取るときの両方で、同じ条件で退職所得控除を適用できます。
ただし、iDeCoの一時金は原則として60歳以降にならないと受け取れません。定年を60歳としている企業も多く、退職金を65歳以降に受け取れないケースもあることが注意点です。
退職金を先に受け取る場合は20年空ける
退職金を先に受け取る場合、退職所得控除の5年ルールは適用されません。税金面での負担を抑えたい場合は、20年以上空けてからiDeCoの一時金を受け取るようにしましょう。20年空ければ、退職所得控除をもう一度同じ条件で利用できます。
ただし、iDeCoの年金資産を受給できるのは75歳までです。退職所得控除の減額を回避するためには、55歳までに会社からの退職金を受け取らなければならない点に注意しましょう。
【出典】
国民年金基金連合会「iDeCo(イデコ)の加入資格・掛金・受取方法等」
https://www.ideco-koushiki.jp/guide/structure.html
老後資金をふやしたいならiDeCoと退職金の受け取りを5年ずらすことも検討しよう
退職金等を受け取る際は「退職所得控除」が適用されますが「5年ルール」があるため、受け取るタイミングについては十分注意が必要です。iDeCoの一時金を先に受け取る場合は5年以上間を空けてから退職金を受け取ると、税負担を軽減できる可能性があるでしょう。
反対に退職金を先に受け取る場合は、20年以上空けてからiDeCoの一時金を受け取ることで、退職所得控除を最大限活用できます。今回の記事を参考にしながら、自分に合った受け取り方法を検討してみましょう。
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